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原 知明、孟 思昆、石井 秀始 ≪疾患データサイエンス学≫ 非コードRNA解析から新たながんのメカニズム ~蛋白をコードしない「隠れた」RNAの機能~

2024年3月12日
掲載誌 Proceedings of the National Academy of Sciences

図1: RNA-seqによる遺伝子発現解析
クリックで拡大表示します

研究成果のポイント

  • RNA*1の新たな機能を発見した。
  • RN7SLというRNAの研究によって、これまで蛋白をコードしないとして分類されていた非コードRNAが小さなペプチドの生成に関わることを明らかにした。
  • この「隠れた」RNAの機能は、がんの発生と進展に関わる可能性がある。
  • この成果は、現在進められている全ゲノムシークエンスにおいても、非コードRNAの新たな意義付けに貢献できると期待される。

概要

大阪大学大学院医学系研究科の原知明特任助教(常勤)、孟思昆特任助教、石井秀始特任教授(常勤)(疾患データサイエンス学)(研究当時)らの研究グループは、非コードRNAの研究においてペプチドの生成に関わる新たなメカニズムを明らかにしました。

これまでの分子生物学的な研究の成果で、読み枠が短いような非コードRNAは大きな蛋白をコードしないため機能が十分にわかっていませんでした。

今回、非コードRNAの1つであるRN7SLに着目することによって、RNA-seq解析を行い(図1)、そのRNA分子が小さなペプチドをコードし細胞生物学的な機能を発揮している可能性を明らかにしました。この機能は、がんの発生と進展に関わることが示唆されます。

このRN7SLは、現在世界的に進められている難治性の悪性腫瘍に対するキメラ抗原受容体(CAR)T細胞療法の効果を制御するものとして着目されています。また現在精力的に進められているがんの全ゲノムシークエンスによって、これまで非コードとして機能が十分に明らかにされていなかった「隠れた」RNAの機能を解明して、画期的な医療の創出に貢献できる可能性があり、この研究はその基盤を構築することができました。

本研究の背景

RNAの数%以下のみが蛋白をコードしています。そのほかの非コードRNAの機能はさまざまであり、まだ十分に理解されていません。今回の研究では、非コードRNAの1つであるRNSLに着目してその機能を明らかにしました。

本研究の内容

研究グループは、RNA-seq解析を行い、RNSLが非コードRNAとされながらも、小さなペプチドを産生することを明らかにしました。この産生は、ストレスやがん化のシグナルで制御されることから、がんの発生と進展に関わる可能性が示唆されます。

本研究が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果により、全ゲノムのシークエンスにおける結果の解釈や、そこから得られる診断や創薬の可能性を広げ、画期的な新技術を生み出す基盤を構築できました。

用語説明

※1 RNA
DNAの転写産物であるRNAの一部は蛋白に翻訳される。しかし、その機能は十分には解明されていない。

特記事項

本研究成果は、米国科学誌「Proceedings of the National Academy of Sciences (PNAS)」に2024年3月12日(火)午前5時(日本時間)に掲載されました。

【タイトル】

“RN7SL1 may be translated under oncogenic conditions”

【著者名】

Tomoaki Hara1,2, Sikun Meng1,2, Yoshiko Tsuji1,2, Yasuko Arao1,2, Yoshiko Saito1,2, Hiromichi Sato1,2,3, Daisuke Motooka4, Shizuka Uchida5, Hideshi Ishii1,2

  1. 大阪大学 大学院医学系研究科 附属最先端医療イノベーションセンター
  2. 大阪大学 大学院医学系研究科 疾患データサイエンス学
  3. 大阪大学 大学院医学系研究科 消化器外科学
  4. 大阪大学 微生物病研究所 遺伝情報実験センターゲノム解析室
  5. オールボー大学、デンマーク

DOI:10.1073/pnas.2312322121

本研究の成果は、共同研究講座の産学連携の活動の一環で行われました。研究の一部は、科研費(21K19526; 22H03146; 22K19559; 16H06279 (PAGS))・三菱財団・高橋産業経済研究財団等の支援を受けて行われました。