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岩堀 幸太、和田 尚 ≪臨床腫瘍免疫学≫、刀祢 麻里、熊ノ郷 淳 ≪呼吸器・免疫内科学≫ 既存のテトラサイクリン系抗菌薬に免疫を活発にする作用あり ~新たな作用機序に基づくがん免疫療法の開発に期待~

2024年4月16日
掲載誌 Journal for ImmunoTherapy of Cancer

図1: テトラサイクリン系抗菌薬を加えることで肺がん患者さんのがん組織内Tリンパ球による
がん細胞傷害活性が増強 (Created with BioRender.com)
クリックで拡大表示します

研究成果のポイント

  • テトラサイクリン系抗菌薬に免疫賦活1作用があることを発見した。
  • テトラサイクリン系抗菌薬はがん細胞などが産生する免疫抑制物質の働きを阻害することにより免疫賦活作用を示すことを明らかにした。
  • テトラサイクリン系抗菌薬が免疫賦活作用を示す仕組みを基にした新たながん治療薬の開発が期待される。

概要

大阪大学大学院医学系研究科の岩堀幸太 特任講師(常勤)、和田尚 特任教授(常勤)(臨床腫瘍免疫学)、刀祢麻里さん(大学院生)、熊ノ郷淳 教授(呼吸器・免疫内科学)らの研究グループはテトラサイクリン系抗菌薬に免疫賦活作用があることを発見し、その作用機序を明らかにしました

研究グループはすでに本研究成果に関連する特定臨床研究を行っており、新型コロナウイルス感染症患者さんについて低用量のテトラサイクリン系抗菌薬投与後、免疫で重要な役割を担うヘルパーTリンパ球の増加がみられることも確認しています。

本研究成果から今後、新たな作用機序に基づく免疫療法の開発が期待されます。

本研究の背景

がん、および新型コロナウイルスなどの感染症においてTリンパ球の作用など免疫は重要な役割を担っています。がん治療では免疫チェックポイント阻害薬などの免疫療法が行われていますが、治療効果がみられるのは一部の患者さんであり、新たな作用機序に基づいた治療薬の開発が望まれています。そこで本研究は様々な既存薬の中から免疫賦活作用を示す薬を探し、その作用機序を明らかにして、より効果のある治療薬を開発することを目標として進めました。

本研究の内容

世界中で古くから用いられてきた抗菌薬であるミノサイクリンなどテトラサイクリン系抗菌薬について検討しました。一般に、抗菌薬は細菌を壊したり、増えるのを抑えたりする薬です。テトラサイクリン系抗菌薬に免疫賦活作用があるかを調べたところ、ヒト末梢血中のTリンパ球および肺がん患者さんのがん組織内Tリンパ球において、テトラサイクリン系抗菌薬を加えることでTリンパ球によるがん細胞傷害活性が増強することを明らかにしました(図1)。また、マウスにがん細胞を移植する実験において、がん細胞移植後にテトラサイクリン系抗菌薬を経口投与することにより、マウスのがん増大が抑制されることを見出しました。この実験においてあらかじめマウスの細胞傷害性Tリンパ球の作用を阻害した場合にはテトラサイクリン系抗菌薬の効果がみられなかったことから、テトラサイクリン系抗菌薬のがんに対する治療効果がTリンパ球の作用を介したものであることが示されました。このようなテトラサイクリン系抗菌薬の免疫賦活作用は抗菌薬としての投与量よりも少ない投与量でみとめられました。

さらに、テトラサイクリン系抗菌薬の免疫賦活作用の仕組みの解明を進め、がん細胞が産生する免疫抑制物質ガレクチン1によるTリンパ球抑制作用をテトラサイクリン系抗菌薬が阻害することを見出し、テトラサイクリン系抗菌薬がガレクチン1の作用を阻害することにより免疫賦活作用を示すことを明らかにしました。

本研究が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果は、これまでがん免疫療法で用いられてきた免疫チェックポイント阻害薬などと異なる作用機序に基づいたテトラサイクリン系抗菌薬の免疫賦活作用を明らかにしたものであり、新たな作用機序に基づいたがん治療薬の開発が期待されます。

用語説明

※1 免疫賦活
体の免疫を活発にすること。

特記事項

本研究成果は、2024416日(火)午前0時(日本時間)に米国がん免疫療法学会誌「Journal for ImmunoTherapy of Cancer」(オンライン)に掲載されました。

【タイトル】

“Tetracyclines enhance anti-tumor T cell immunity via the Zap70 signaling pathway”

【著者名】

Mari Tone1,2, Kota Iwahori1,2*, Michinari Hirata1,3, Azumi Ueyama1,3, Akiyoshi Tani4, Jun-Ichi Haruta4, Yoshito Takeda2, Yasushi Shintani5, Atsushi Kumanogoh2, Hisashi Wada1 (*責任著者)

  1. 大阪大学 大学院医学系研究科 臨床腫瘍免疫学
  2. 大阪大学大学院医学系研究科 呼吸器・免疫内科学
  3. 塩野義製薬株式会社
  4. 大阪大学 大学院薬学研究科
  5. 大阪大学 大学院医学系研究科 呼吸器外科学

DOI:10.1136/jitc-2023-008334