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伝習から発信へ。大阪大学大学院医学系研究科・医学部の最新情報。

大阪大学で認知症医療イニシアティブが始動!

写真左から 安井 忠良(株式会社そーせい 代表取締役社長)
      森 悦朗    (大阪大学 大学院連合小児発達学研究科 行動神経学・神経精神医学 寄附講座教授)
      池田 学    (大学院医学系研究科 精神医学 教授)

概要

国立大学法人大阪大学(以下、大阪大学)は、認知症性疾患を中心とした大脳疾患に対する専門医療およびそれに対する高度な治験を含む臨床研究を推進するために、そーせいグループの100%子会社であるHeptares Therapeutics(英国、ヘプタレス・セラピューティクス、以下「ヘプタレス社」)の支援を得て、101日に大阪大学大学院連合小児発達学研究科に行動神経学・神経精神医学1寄附講座を設置いたしました。また本講座は、人材育成という目的に賛同いただいた協和会ならびに錦秀会からも支援を得ています。

現在、アルツハイマー病やレビー小体型認知症に対する薬剤の開発が世界中で進められ、多くの治験が進行中であり、さらに多くの治験が計画されています。認知症性疾患や他の神経精神疾患による認知行動障害を対象とした治験においては、ヒトの大脳と認知機能との関係に関する知識、すなわち神経心理学の知識が必須とされますが、我が国においてはそれに精通した専門医は少なく、また治験を遂行できるような神経心理学者はほとんど存在していないのが実情です。過去のアルツハイマー病の共同研究の不成功の一因には、関与した研究者(医師)および心理士の技量の不均質性が指摘されていました。また高度な内容の認知症をはじめとする神経精神疾患の治験を実施できる施設が極めて乏しく、原因疾患や重症度に応じた評価尺度を選択ないし開発できる専門家もごく少数であることから、グローバルな治験への参加も困難で、我が国発の薬剤でも海外での治験を先行させるケースも多くみられました。

大阪大学大学院医学系研究科では、これまでも認知症の診療と臨床研究に力を入れ、新薬の開発にも大きく関わってきました。一方、ヘプタレス社は、英国のMRC分子生物学研究所および国立医学研究所の研究成果を基に2007年に設立された医薬品開発企業で、G-タンパク質共役受容体を標的とした創薬を行っています。アルツハイマー病およびその他認知症の治療薬の研究開発を行っています。

そこでこの度、これまで認知症診療や臨床研究の実績のある大阪大学において、本寄附講座を設け、認知症に対する高度な専門医療を実践するとともに、認知症に対する薬剤の臨床薬理学の教育や研究の基盤を提供する場、すなわち「認知症医療イニシアティブ」を医学系研究科と協力して構築していきます。

用語説明

※1行動神経学・神経精神医学

行動神経学は、行動、記憶、および認知の神経学的基盤、これらの機能に対する損傷や疾患や病気の影響、およびそれらの治療を研究する神経内科学の専門分野です。神経心理学、神経画像学や神経薬理学を基本として、1) 認知と行動を冒す、びまん性と多巣性脳損傷(例えばせん妄と認知症)、2)局所性脳損傷による行動神経学的症候群(例えば失語症、健忘症、失認、失行など)、および3)神経疾患による神経精神医学的症状、を主な対象とします。

一方神経精神医学は、精神医学の中で器質性精神疾患、すなわち大脳疾患によって生じた精神症状、行動異常、認知障害を専門とする分野であり、行動神経学と関心領域を共有しています。行動神経学および神経精神医学はかつて分割された神経内科学と精神医学を繋ぐ領域であり、まさに認知症診療の専門科という位置づけになります。

本件に関して、 10月 16 日(月)に記者発表を行いました。