2025年

  • トップ
  • >
  • 研究活動
  • >
  • 主要研究成果
  • >
  • 2025年
  • >
  • 松井 功、松本 あゆみ、猪阪 善隆 ≪腎臓内科学≫ \医療格差の解消へ/
    病院の壁を超える腎病理AI診断支援システムを開発
    ~専門医不足地域でも高精度診断の実現を支援する新技術~

松井 功、松本 あゆみ、猪阪 善隆 ≪腎臓内科学≫ \医療格差の解消へ/
病院の壁を超える腎病理AI診断支援システムを開発
~専門医不足地域でも高精度診断の実現を支援する新技術~

2025年11月23日
掲載誌 npj Digital Medicine

図1:様々な検討条件において、Residual-CycleGANと半教師あり学習の組み合わせが高性能であることを示す。クリックで拡大表示します

研究成果のポイント

  • 全国22病院の腎生検画像を用いた大規模多施設AI研究により、病院や検査装置が異なっても高精度に病変を検出できるAIモデルの開発に成功
  • 従来は専門医による大量のアノテーション(病変の位置情報の記録)が必要だったが、半教師あり学習※1Residual-CycleGAN2という2つのAI技術を組み合わせることで、少ないアノテーションで高精度なAIモデルを開発
  • 異なる病院間でAIモデルを共有・活用できる基盤技術として、腎臓病診断の標準化と医療格差の解消、さらには他の稀少疾患診断への応用に期待 

概要

大阪大学大学院医学系研究科の松井功講師、猪阪善隆教授、大阪大学医学部附属病院の松本あゆみさん(医員)らの研究グループは、一般社団法人 日本腎臓学会AIICT 活用基盤構築小委員会、および愛知医科大学、医学研究所北野病院、愛媛大学、大阪急性期・総合医療センター、大阪労災病院、大津赤十字病院、香川大学、金沢医科大学、川崎医科大学、関西労災病院、九州大学、京都大学、近畿大学、久留米大学、国立病院機構大阪南医療センター、国立病院機構千葉東病院、市立豊中病院、市立東大阪医療センター、順天堂大学、東海大学、東京大学、名古屋大学、奈良県立医科大学、新潟大学、日本医科大学、広島大学、兵庫医科大学、兵庫県立西宮病院、藤田医科大学、和歌山県立医科大学、JCHO 大阪病院 (50音順)との共同研究にて、病院や検査装置が異なっても高精度に腎生検画像から病変を検出できる人工知能(AI)モデルの開発に成功しました(図1)。

これまで医療AIの開発では、専門医が病変の位置を詳しく記録する「アノテーション」作業が大量に必要なことや、病院ごとに病理検体の処理方法が若干異なるため、ある病院で開発したAIモデルが他の病院では十分に機能しないという「ドメインシフト3」という課題がありました。

今回、研究グループは、半教師あり学習という、少ないアノテーションデータと大量の未ラベルデータを組み合わせて学習する手法と、Residual-CycleGANという、異なる病院で作成した病理画像の見た目の違いを補正する技術を組み合わせることで、「GAN-Semi-Supervised YOLO」というAIモデルを開発し、この2つの課題を同時に解決しました。

このAIは、腎病理医が不足している地域でも高精度な診断支援を可能にし、稀少疾患、他の診断困難な疾患に対するAI開発を加速させるもので、複数の病院が保有するデータの有効活用が可能となり、多施設共同研究を促進することや、他疾患への応用も期待されます。

本研究成果は、科学誌「npj Digital Medicine」に、1123日(日)に公開されました。

本研究の背景

腎臓病の正確な診断には、腎生検で採取した組織を顕微鏡で詳しく観察する病理診断が不可欠です。しかし、専門的な知識を持つ腎病理医が不足しており、診断の標準化や効率化が課題となっています。

近年、AI を用いた画像診断支援システムの開発が進められていますが、2つの大きな課題がありました。第一に、AIモデルの学習には専門医による大量のアノテーション(病変の位置情報の記録)が必要で、特に稀少な病変では十分なデータを集めることが困難でした。第二に、病院ごとに病理検体の処理方法が若干異なり、組織スライドスキャナーも統一されていないため、ある病院で開発したAIモデルが他の病院では性能が低下する「ドメインシフト」という問題がありました。

本研究の内容

研究グループは、日本腎臓学会のAI, ICT基盤構築小委員会を通じて全国22病院から腎生検画像を収集し、3種類の異なるスキャナーで撮影された画像を含む大規模データセットを構築しました。開発した手法では、まずYOLOv84という高速な物体検出AIを基本モデルとして使用しました。その上で、以下の2つの技術を組み合わせました:

(1) 半教師あり学習:少量のアノテーション付きデータで学習した基本モデルを使って、大量のアノテーションなしデータに対して自動的にラベルを付与(擬似ラベリング)し、それらを組み合わせて再学習することで、モデルの性能を大幅に向上させました。

(2) Residual-CycleGANによるドメイン適応: CycleGANは画風などを変換する技術です。病理画像では、構造を正確に維持しつつ病院間の画質の違いを補正する必要があるため、より構造を正確に保持するよう工夫したResidual-ycleGANを構築しました。

これら2つの技術を組み合わせた「GAN-Semi-Supervised YOLO」は、基本モデルと比較して、多くの病院・スキャナーの組み合わせで統計的に有意な性能向上を示しました。特に、開発に使用した病院と異なるスキャナーを使用している病院のデータでも高い精度を維持できることが確認されました。

本研究が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究で開発した手法により、以下のような社会的インパクトが期待されます。

  1. 腎臓病診断の標準化と医療格差の解消:異なる病院・異なる検査装置でも使用できるAIモデルを開発する手法を確立したことで、腎病理医が不足している地域でも高精度な診断支援が可能となり、医療の質の地域格差解消に貢献します。
  2. 医療AI開発の効率化:半教師あり学習により、専門医によるアノテーション作業の負担を大幅に軽減できます。これにより、稀少疾患や他の診断困難な疾患に対するAI開発が加速されることが期待されます。
  3. 多施設共同研究の促進:ドメインシフト問題を解決する技術は、複数の病院が保有するデータを有効活用できる基盤となり、医療AI研究における多施設共同研究を促進します。
  4. 他疾患への応用可能性:本研究で開発した技術は、腎臓病理診断だけでなく、他の臓器の病理診断や、医療画像を用いる様々な診断領域への応用が期待されます。

研究者のコメント

<松井 功 講師のコメント>
病院間のドメインシフトという課題と、専門医によるアノテーション不足という2つの壁を同時に乗り越えることは大きな挑戦でした。日本腎臓学会と全国の先生方の献身的なご協力のおかげで、新たなAI技術を実現できました。この成果が腎臓病診療の標準化と質の向上に貢献することを願っています。

用語説明

※1  半教師あり学習
少量のラベル付きデータ(アノテーション済みデータ)と大量のラベルなしデータを組み合わせて学習する機械学習の手法。専門家によるアノテーション作業の負担を軽減しながら、高精度なモデルを構築できる。

※2 CycleGAN
異なるドメインの画像を相互に変換する深層学習技術。本研究では、異なる病院に由来する病理画像の見た目の違いを補正するために使用。ペアとなる対応画像がなくても学習できるのが特徴。

※3 ドメインシフト
機械学習モデルが学習したデータと異なる特性を持つデータにモデルを適用した際に、性能が低下する現象。医療画像では、病院や検査装置の違いによって画像の見た目が異なることが主な原因。

※4 YOLOv8
You Only Look Once」の略で、画像内の物体を高速かつ高精度に検出する深層学習アルゴリズム。

特記事項

本研究成果は、2025年11月23日(日)科学誌「npj Digital Medicine」(オンライン)に掲載されました。

【タイトル】

Domain-adaptive semi-supervised learning for efficient rare pathological lesion detection with minimal annotation

【著者名】

Isao Matsui, Ayumi Matsumoto, Atsuhiro Imai, Hiroki Okushima, Hirohiko Niioka, Masatoshi Abe, Natsune Tamai, Hajime Nagasu, Eiichiro Kanda, Eiichiro Uchino, Tadashi Sofue, Toshiyuki Imasawa, Yuichiro Yano, Hiroshi Kinashi, Ken-ichi Miyoshi, Tamaki Harada, Yasuyuki Nagasawa, Keiji Fujimoto, Yuka Kurokawa, Sawako Kato, Ryohei Kaseda, Masahiro Koizumi, Yasuo Kusunoki, Masaki Ohya, Yoshimasa Kawazoe, Hiroyuki Abe, Yuta Matsukuma, Takaaki Kosugi, Yoshiyasu Ueda, Naohiko Fujii, Masanobu Takeji, Akira Suzuki, Katsuyuki Nagatoya, Kazumasa Oka, Yutaka Ando, Masaaki Izumi, Toshiyuki Komiya, Tatsuo Tsukamoto, Imari Mimura, Takahiro Kuragano, Toshiaki Nakano, Kazuhiko Tsuruya, Yasuhiko Ito, Tetsuo Minamino, Osamu Yamaguchi, Suguru Yamamoto, Hirotaka Komaba, Kengo Furuichi, Kei Fukami, Shin-ichi Araki, Takao Masaki, Naotake Tsuboi, Hitoshi Yokoyama, Akira Shimizu, Tetsuo Ushiku, Shoichi Maruyama, Motoko Yanagita, Masaomi Nangaku, Ryohei Yamamoto, Kazunori Inoue, and Yoshitaka Isaka

DOI:https://doi.org/10.1038/s41746-025-02160-6

なお、本研究は、JST科学研究時助成事業、厚生労働科学研究費補助金・難治性疾患政策研究事業 難治性腎障害に関する調査研究、AMED「難治性疾患実用化研究事業」の一環として行われました。

【SDGs目標】

 

【参考URL】

松井 功 講師
研究者総覧URL  https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/96444741b5ddf5a9.html