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  • 黒川 幸典、土岐 祐一郎 ≪消化器外科学≫ 急増する食道胃接合部がん、標準手術を確立
    ~ アジア初の前向き臨床試験、日本発のエビデンスが世界へ ~

黒川 幸典、土岐 祐一郎 ≪消化器外科学≫ 急増する食道胃接合部がん、標準手術を確立
~ アジア初の前向き臨床試験、日本発のエビデンスが世界へ ~

2026年2月18日
掲載誌 Cell Reports Medicine

図1: 食道胃接合部がんのイメージ図
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研究成果のポイント

  • 近年、わが国で急増している食道胃接合部がんに対する手術について、今世紀に入って世界で初めてとなる大規模な前向き臨床試験を実施し、その長期成績と臨床的な特徴が判明。
  • 手術でどのリンパ節を切除すれば長期予後への寄与が最大となるかが明らかとなり、食道胃接合部がんに対する推奨手術のアルゴリズムを構築。
  • これまで国、施設、診療科によってバラバラであった食道胃接合部がん手術の標準化と最適化が進み、周術期治療を含めた治療全体の成績向上に期待。

概要

 大阪大学大学院医学系研究科消化器外科学の黒川幸典准教授、土岐祐一郎教授らの研究グループは、食道と胃のつなぎ目(食道胃接合部※1)に発生する「食道胃接合部がん(図1)」に対して、手術を主題とした大規模な前向き臨床試験としては、今世紀に入って世界で初めてとなる研究を実施し、その長期成績や臨床的な特徴を明らかにしました。
 食道胃接合部がんは、近年日本をはじめ世界中で急増している一方、手術の方法を含め標準的な治療法が定まっていませんでした。
 今回、手術でどのリンパ節を切除すれば長期予後への寄与が最大となるかを明らかにし、食道胃接合部がんに対する推奨手術のアルゴリズムを構築しました。
 これにより、日本をはじめ世界中で増加している食道胃接合部がんに対する手術の標準化と最適化が進み、周術期治療を含めた治療全体の成績が一段と向上することが期待されます。

 本研究成果は、米国科学誌「Cell Reports Medicine」に、2月18日(水)午前1時(日本時間)に公開されます。

本研究の背景

 1990年代まで、食道胃接合部がんは日本をはじめ世界中で比較的まれな疾患であったため、その特徴はほとんど分かっておらず、標準的な治療法も定まっていませんでした。しかし今世紀に入って、特に日本において食道胃接合部がんが急速に増加しているものの、その最適な治療法が分かっていないため、手術を行う場合でもその方法は国や施設によって、さらには同じ施設であっても胃外科や食道外科といった診療科によってバラバラであるというのが大きな問題となっていました。
 そこで、食道胃接合部がんに対する標準手術を確立するため、土岐祐一郎教授と北川雄光教授(慶應義塾大学)が中心となり、胃外科医が多く所属する日本胃癌学会と、食道外科医が多く所属する日本食道学会の合同による初めての大規模な前向き臨床試験を実施することになりました。

本研究の内容

 臨床試験には、日本全国の胃がん手術と食道がん手術のリーダー的な役割を担っている42施設が参加しました。そして、2014年4月から2017年9月の間に1000人を超える食道胃接合部がん患者がスクリーニングされた結果、363人が適格と判断されて本試験に登録され、あらかじめ規定された手術を受けました。その結果、5年生存率は63.5%、5年無再発生存率は53.2%であり、142人に術後の再発を認めました。再発部位としてはリンパ節が最多であり、続いて肝、腹膜、肺の順でした。
 食道と胃の周囲のリンパ節への転移率は0.9%~37.1%、治療効果指数※2は0~18.9(図2)と、部位によって大きく異なっており、このことから切除すべきリンパ節と、切除を省略してよいリンパ節が判明しました。これらの結果を元に、食道胃接合部がんに対する推奨手術のアルゴリズム(図3)を構築し、これは食道胃接合部がんに対する標準手術として、胃癌治療ガイドラインと食道癌診療ガイドラインの両方に反映される予定となっています。

図2:食道と胃の周囲のリンパ節の治療効果指数
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図3:食道胃接合部がんに対する推奨手術のアルゴリズム
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本研究が社会に与える影響(本研究成果の意義)

 本研究成果により、近年わが国で急増している食道胃接合部がんの臨床的な特徴が明らかとなっただけでなく、どのリンパ節を切除すれば長期予後への寄与が最大となるかを明らかにし、食道胃接合部がんに対する標準手術が確立されました。
 これにより、これまで国や施設、さらには同一施設内でも担当する診療科によってバラバラであった食道胃接合部がん手術の標準化と最適化が進み、日本だけでなく世界中で周術期治療を含めた治療全体の成績が一段と向上することが期待されます。

研究者のコメント

<黒川幸則 准教授のコメント

 本研究は、食道胃接合部がんを対象に日本の2つの大きな学会が初めて合同で行った臨床試験であり、近年急増している食道胃接合部がんの特徴を明らかにし、どのような治療を行えばよいかの道しるべを作ることができました。
 この結果は日本だけでなく世界各国のガイドラインでも引用されるものと思われ、日本発のエビデンスが世界中の食道胃接合部がんの患者さんの治療に貢献できると思うと、感無量です。

用語説明

※1  食道胃接続部
食道と胃のつなぎ目のことで、食道と胃の粘膜が切り替わる境界部になり、胃酸の逆流を防ぐ重要な役割を持ちます。食道胃接合部の上下2cm以内に腫瘍の中心があるがんを「食道胃接合部がん」と呼び、食道がんや胃がんとは異なる疾患として近年注目されています。

※2 治療効果指数
特定のリンパ節における「転移率(%)」と、「転移していた患者における手術後の5年生存率(%)」を掛け合わせた数字であり、このリンパ節を切除することでどれだけ患者の長期予後に寄与しているかを定量化した指標になります。

特記事項

本研究成果は、2026年2月18日(水)午前1時(日本時間)に米国科学誌「Cell Reports Medicine」(オンライン)に掲載されます。


【タイトル】
“Establishing a standard surgery for esophagogastric junction cancer: Final results from the JGCA-JES nationwide prospective study”

【著者名】
黒川幸典1*、竹内裕也2、土岐祐一郎1、峯真司3、寺島雅典4、安田卓司5、吉田和弘6、大幸宏幸7、桜本信一8、吉川貴己9、國崎主税10、瀬戸泰之11、田村茂行12、下川敏雄13、佐野武3、北川雄光14 (*責任著者)

【所属】
1大阪大学大学院医学系研究科 消化器外科学、2浜松医科大学 外科学第二講座、3がん研究会有明病院 消化器外科、4静岡県立静岡がんセンター 胃外科、5近畿大学医学部 外科学上部消化管部門、6岐阜大学 消化器外科、7国立がん研究センター東病院 食道外科、8埼玉医科大学医学部国際医療センター 消化器外科、9神奈川県立がんセンター 消化器外科、10横浜市立大学附属市民総合医療センター 外科、11東京大学大学院医学系研究科 消化管外科学、12関西ろうさい病院 外科、13和歌山県立医科大学医学部 医療統計学、14慶應義塾大学医学部 一般・消化器外科

DOI:https://doi.org/10.1016/j.xcrm.2026.102627
本研究は、日本胃癌学会と日本食道学会の合同研究として行われました。

黒川 幸典 准教授 研究者総覧
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/0ddbdff5c1690984.html

 

本件に関して、オンラインにて記者発表を行いました。