教室紹介

研究内容

Research

2) PET/SPECT画像診断【腫瘍PET】
脳代謝PET

アストロサイト代謝のPET

C-11 酢酸は心臓の筋肉でよく取り込まれ盛んに代謝されることが良く知られており、心筋代謝を定量的に評価するトレーサとしてよく用いられます。しかし、一方で脳ではC-11 酢酸は主にアストロサイトに取り込まれます。C-11 酢酸はアストロサイトに取り込まれると、すぐにクエン酸回路で代謝され、1-C-11酢酸の場合はそのほとんどが短時間の間にC-11 CO2になって、速やかに血中に逆拡散します。また、一部はC-11グルタミン酸あるいはC-11グルタミンとして脳内に残ると考えられています。
私たちは、アストロサイトが活性化することで知られる炎症性脱髄疾患として多発性硬化症に注目し、その患者さんおよび正常者を対象に1-C-11 酢酸PETを施行しました。
PETによる集積を評価すると、多発性硬化症の患者さんでは1-C-11 酢酸の集積が大脳灰白質、大脳白質の両方で有意に高いことがわかりました。この変化は、多発性硬化症の特徴的病変であるプラークの周囲の局所的変化ではなく、びまん性の集積亢進であり、同疾患においてアストロサイトの活性化がMRIで正常に見える脳組織にも生じていることが示されました。

1-C-11 酢酸PETの集積 白質/灰白質

1-C-11 酢酸PETの集積 白質/灰白質

1-C-11酢酸は脳内での代謝が早いため、投与した後時間が経過すると代謝物の脳内での拡散やさらなる代謝が生じます。このような場合、投与から時間が経過した後の放射能分布では酢酸の代謝そのものを正確に評価できません。1-C-11酢酸の代謝をより正確に定量評価するために、我々は代謝速度に直接関連するC-11 CO2の洗い出し速度に注目し、それを画像化することにしました。この方法によって、多発性硬化症では、特に神経線維束周囲でアストロサイトによる酢酸の取り込みと、酢酸の代謝が非常に亢進していることが明らかになりました。現在、この方法を用いて、類似の脱髄疾患やその他神経変性疾患に応用し、評価を行っています。

Takata K*, Kato H*, et al. PLoS One. 2014;9:e111598 (equally contributed)
Kato H, et al. J Cereb Blood Flow Metab. 2020:271678X20911469
Kato H, et al. Neural Regen Res. 2021;16

PETによる双生児の脳代謝の比較

脳代謝(糖代謝)およびその分布は、遺伝子によって規定されているのかあるいは環境因子が大きな要因となるのか、という点に関して、F-18 FDG PETを双生児ペアの脳に対して行いました。その結果、年齢・性別が同一の全く無関係なペアと比較して、双生児では、ペア間の脳糖代謝の差異が脳全域で非常に低いことがわかりました。さらに、一卵性双生児ペアと二卵性双生児ペアでの脳糖代謝の差異を比較したところ、一卵性双生児ペアでは二卵性双生児ペアと比較してペア間の脳糖代謝の差異が脳全域で非常に低いことがわかりました。特に、頭頂葉では、一卵性双生児ペア間の級内相関>二卵性双生児ペア間の級内相関、という有意な差が認められました。これは、頭頂葉の糖代謝が一卵性双生児では特によく似ている、ということを意味します。
これらの事実から、脳代謝(糖代謝)およびその分布は、脳全域で一定程度遺伝的要因によって規定されているが、とくに頭頂葉ではその傾向が強いことがわかりました。

ペア間での脳糖代謝の差異

ペア間での脳糖代謝の差異

Watanabe S*, Kato H*, et al. J Nucl Med. 2016;57:392-397 (equally contributed)