堀家 なな緒、根本 孝裕、伊川 正人、妻木 載行≪組織生化学≫ シングルセル解析により軟骨無形成症の病態を解明
~軟骨細胞分化を制御し骨が成長するしくみを理解~
2026年2月26日
掲載誌 Nature Communications
図1:FGFR3が活性化した軟骨無形成症モデルマウスの成長軟骨板の組織像。
本研究にて、CREB活性のマーカーとしてSPONDIN1を発見した。モデルマウスの静止層は幅が増大し、SPONDIN1を高発現していた、即ちCREBが活性化していた。
RZ, 静止層; PZ, 増殖層; HZ, 肥大層
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研究成果のポイント
- 骨の成長を制御する仕組みについて、静止層軟骨細胞のFGFR3/CREB経路が骨の成長を制御していることを発見
- これまで骨の成長について、静止層軟骨細胞から増殖層軟骨細胞への供給を調整する仕組みはわかっていなかったが、軟骨無形成症のモデルマウスの成長軟骨板をシングルセルRNAシーケンス解析することで、FGFR3/CREBが静止層軟骨細胞から増殖層軟骨細胞への供給を制御することによって骨の成長を調節していることを解明
- 軟骨細胞分化の理解が進み、軟骨無形成症の治療薬開発への応用に期待
概要
大阪大学大学院医学系研究科/生命機能研究科/ヒューマン・メタバース疾患研究拠点(PRIMe)の堀家なな緒助教、妻木範行教授、PRIMeの根本孝裕教授、微生物病研究所の伊川正人教授らの研究グループは、骨の成長を制御する仕組みについて、静止軟骨細胞におけるFGFR3※1/CREB※2経路が関わっていることを世界で初めて明らかにしました。
骨の成長は成長軟骨板※3という場所で起こり、静止層軟骨細胞が分化して増殖層軟骨細胞を供給することで骨が伸びます。しかし、軟骨無形成症※4では、遺伝子変異によりFGFR3が過剰に活性化し、成長軟骨板の機能が障害されて骨の成長が妨げられます。これまでFGFR3は成長軟骨板において細胞の分化と増殖を抑えると考えられており、軟骨細胞の各分化段階で起きていることは詳細には調べられていませんでした。
今回、研究グループは、軟骨無形成症の遺伝子変異を導入したモデルマウスを作製しました。その成長軟骨板をシングルセルRNAシーケンス解析することにより、FGFR3/CREB経路において、静止層軟骨細胞が増殖層軟骨細胞への供給を阻害することで、骨の成長を抑制していることを解明しました。この研究により、軟骨細胞分化と骨の成長のしくみの理解が進み、軟骨無形成症の治療薬開発への応用が期待されます。
本研究成果は、英国科学誌「Nature Communications」に、2月26日(木)19時(日本時間)に公開されます。
研究の背景
骨の成長は成長軟骨板で起きており、そこでは静止層軟骨細胞が分化して増殖層軟骨細胞を供給し、それが肥大層軟骨細胞になった後に骨に置き換わることで骨が伸びます。低身長を主訴とする軟骨無形成症では、遺伝子変異によりFGFR3が過剰に活性化し、成長軟骨板の機能が障害されて骨の成長が妨げられています。これまでFGFR3は成長軟骨板において細胞の分化と増殖を抑えることが知られていましたが、軟骨細胞の各分化段階で起きていることは詳細には調べられておらず、静止層軟骨細胞から増殖層軟骨細胞への供給を調節する仕組みはわかっていませんでした。
研究の内容
研究グループでは、FGFR3を過剰に活性化させた遺伝子改変マウスを作製しました。このマウスは全身の骨長が短く、軟骨無形成症の症状を呈しました。そして、各骨の成長軟骨板において静止層の幅が増大していることを新たに発見しました(図)。そこで、軟骨細胞の系譜を追跡したところ、FGFR3の活性化によって、静止層軟骨細胞は細胞分裂後に静止層にとどまり増殖層軟骨細胞への供給が阻害されていることがわかりました。さらに、成長軟骨板のシングルセルRNAシーケンス解析により、活性化したFGFR3は静止層軟骨細胞においてCREBを活性化することで異常を引き起こしていることを明らかにしました(図、下段)。実際に、マウスにCREB阻害剤を投与することで骨長の短縮が改善し、CREBが軟骨無形成症の創薬標的分子になる可能性を示しました。
本研究が社会に与える影響(本研究成果の意義)
本研究成果により、軟骨細胞分化を制御する新たな機構が発見され、骨の成長を調節するしくみの理解が進みました。FGFR3がCREBを介して静止層軟骨細胞の振る舞いを調節していることを明らかにしたことにより、軟骨無形成症の治療方法の開発に貢献することが期待されます。
研究者のコメント
<妻木 載行 教授のコメント>
本研究により、軟骨細胞分化を調節するしくみの理解が分子レベルで進みました。病態の原因となる分子を標的とした治療薬開発や軟骨再生への応用を進めて、難治性軟骨疾患の治療方法の進展に貢献したいと思います。
用語説明
※1 FGFR3
線維芽細胞増殖因子受容体3型。細胞膜に存在し、線維芽細胞増殖因子が結合することで細胞内へ情報を伝達する。軟骨細胞に高発現し、細胞の増殖と分化を調節している。
※2 CREB
cAMP応答配列結合タンパク質。細胞内の様々な刺激に応答して活性化され、特定の遺伝子の発現を調節する転写因子である。
※3 成長軟骨板
成長期の子どもの各骨の端にある軟骨組織。骨の中心に向かって、静止層、増殖層、肥大層の3層からなる。静止層の軟骨細胞が分化して増殖層軟骨細胞になり活発に増殖する。その後に肥大して最終的に骨組織に置き換わっていくことで骨が伸びる。
※4 軟骨無形成症
FGFR3遺伝子の活性型変異により引き起こされる疾患で、骨の成長が抑制されて低身長を主訴とする。軟骨細胞の増殖・分化が抑制される。
特記事項
本研究成果は、2026年2月26日(木)19時(日本時間)に英国科学誌「Nature Communications」(オンライン)に掲載されます。
【タイトル】
“Excess FGFR3 signaling in achondroplasia disrupts turnover of resting zone chondrocytes via CREB signaling”
【著者名】
Nanao Horike, Seiya Oura, Saeko Koyamatsu, Noriko Tanaka, Yuki Iimori, Kaori Fujita, Takahiro Nemoto, Masahito Ikawa, and Noriyuki Tsumaki
DOI:https://doi.org/10.1038/s41467-026-69507-9
なお、本研究は、AMED再生・細胞医療・遺伝子治療実現加速化プログラム「膝関節軟骨損傷に対する再生治療非臨床PoCの獲得:rTRによるゲノム編集iPS細胞由来軟骨の開発」「iPS細胞由来髄核を用いた髄核replacementによる椎間板変性の再生治療開発」、AMED橋渡し研究プログラム「同種iPS細胞由来板状軟骨組織による広範囲関節軟骨損傷の再生治療法開発」、および科学研究費助成事業研究「軟骨・骨組織由来新規生理活性物質による全身性代謝制御機構の解明」「先端モデル動物支援プラットフォーム」「シングルセル網羅的発現解析とiPS細胞モデルによるヒト軟骨分化機構の解明」の一環として行われました。
妻木 載行 教授
研究者総覧
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/e2ae930122bcfd10.html?k=妻木範行
