NEWS & TOPICS

伝習から発信へ。大阪大学大学院医学系研究科・医学部の最新情報。
  • トップ
  • >
  • NEWS & TOPICS
  • >
  • 坂上 沙央里 助教が 第15 回「ロレアル-ユネスコ女性科学者 日本奨励賞」を受賞

坂上 沙央里 助教が 第15 回「ロレアル-ユネスコ女性科学者 日本奨励賞」を受賞

世界最大の化粧品会社ロレアルグループ(本社:パリ)の日本法人である日本ロレアル株式会社は、2020 年度 第15 回「ロレアル-ユネスコ女性科学者 日本奨励賞」の受賞者4 名を選出し、大阪大学から遺伝統計学の 坂上 沙央里(さかうえ さおり)助教が「生命科学」分野にて受賞しました。

受賞理由: 大規模ヒトゲノム解析により、日本人集団のゲノムの多様性を明らかにし、またヒトの健康寿 命・病気リスクに関連するバイオマーカーの特定に貢献

女性研究者の活躍推進は未だ課題があり、世界における研究者のうち女性の割合はわずか 29%、学術研究機関で上席の職位に就いている女性は1 %に留まり、女性ノーベル賞受賞者は3%に留まります。日本の女性研究者の数は、15 万5000 人。年々増加傾向にはあるものの、研究者全体に占める割合は未だ16.6%と世界平均に及んでいない状況です。日本ロレアルにおいては国内の若手女性科学者の支援・研究活動の奨励を目的に、2005 年に日本ユネスコ国内委員会との協力のもと「ロレアル-ユネスコ女性科学者 日本奨励賞」を創設。今年で 15 周年を迎える本賞の歴代受賞者は、その研究内容において国内外で高く評価され、また研究生活と並行して結婚・出産、次世代の育成など、多様なキャリアを切り拓いています。

 

<研究内容>タイトル:大規模ゲノム情報を疾患基盤の解明・臨床応用に役立てるための新規解析手法の開発と国際共同研究の遂行

全ての生き物の細胞の設計図であるゲノムは、ATCG のたった 4 種類の塩基の並びで構成されています。
ヒトゲノムは 30 億の塩基の並びからできており、アフリカで誕生した最初の現生人類から変化を繰り返しながら受け継がれてきました。2001 年に「ヒトゲノム計画」が終了し、歴史上はじめてヒトの全遺伝情報が解読されました。この 20 年でゲノムの解析にかかるコストが劇的に低下し、どの部分に遺伝的変異があると疾患の発症と関連するか、数百万人規模で網羅的に調べることが可能となりました。ゲノムが人間の設計図なら、ゲノムの解析が終わればあらゆる病気の発症が予測でき病態も解明されるようにも思われましたが、実際にはまだかなり道半ばです。ゲノム研究を本当に病気の理解と治療に役立てるための大きな課題として、生まれついてのゲノム情報が複雑な疾患を形作るまでのメカニズムが不明であること、そしてゲノム情報を臨床現場での診療に役立てる方法論が確立されていないことが挙げられます私は大学院での研究を通して、ゲノム解析を用いた健康長寿バイオマーカーの発見(Nature Medicine 2020; 図1)、機械学習という新しい解析手法を用いた日本人のゲノム多様性の解明と、ゲノムによる病気のリスク予測に与える影響の評価(Nature Communications 2020; 図 2)、ゲノム情報と実験生物学の情報との統合解析を行う解析手法の開発(Nucleic Acids Research 2018)、ゲノム解析を活用したドラッグ・リポジショニングに関するソフトウェアの開発(Bioinformatics 2019)など多岐に渡る研究を行いました。これらは、これまでのゲノム研究の成果を、より生物学的な理解・臨床現場での活用に近づける世界的に見ても独創性の高い研究成果と考えています。

 

関連記事:
http://www.med.osaka-u.ac.jp/activities/results/2020year/okadasakaue20200327

http://www.med.osaka-u.ac.jp/activities/results/2020year/okada20200324

 

坂上助教のコメント

「大学院に入学するまでは医師としての仕事を楽しんでおり、正直言って研究者としての自分をあまり想像していませんでした。ですが、大学院で始めたヒトゲノム研究の幅広さと面白さに気づいたら取り憑かれてしまっていました。ゲノム情報を利用した個別化医療はいよいよ現実化しようとしており、新しい実験技術により得られる科学データと統合したらどんな新しいことを見つけられるだろうと、これからの研究への展望に胸が膨らんでいるところです。こんなに夢中になることを見つけられただけでも幸せと感じるこれまでの研究生活でしたが、このような賞をいただき大変嬉しく思います。時には順調なことばかりではありませんでしたが、頑張ってきたことをいつも評価していただき、何より私を研究に夢中にさせてくださった指導者の先生方に改めて深くお礼を申し上げるとともに、少しでも恩返しさせていただけていたら嬉しく思います。」