「癌ケトン食治療コンソーシアム」研究成果 進行性がん患者で新しいケトン食療法による有望な結果~国際科学雑誌Nutrientsで発表~
国立大学法人 大阪大学(総長:西尾 章治郎)、明治ホールディングス株式会社(代表取締役社長:川村 和夫)および日清オイリオグループ株式会社(代表取締役社長:久野 貴久)の協働ユニット「癌ケトン食治療コンソーシアム」(代表研究者:大阪大学 大学院医学系研究科 先進融合医学 特任教授(常勤)萩原 圭祐)は、癌治療に有効なケトン食※1による食事療法を確立することを目的として、エビデンス構築のための臨床研究、基礎研究を推進しています。
このたび、進行性のがん患者を対象とした臨床研究において、中鎖脂肪酸油※2(MCT)を含むフォーミュラ食品※3を使用した新しいケトン食療法によって、有望な結果が得られました。
本研究成果は、2020年5月19日に国際科学雑誌Nutrientsのオンライン速報版で公開されました。
内容
■論文タイトル:
Promising Effect of a New Ketogenic Diet Regimen in Patients with Advanced Cancer(進行性がん患者における新しいケトン食療法の有望な効果)
■概要:
近年の研究によって、ケトン食(低炭水化物・高脂肪の食事)を用いた食事療法は、癌患者にとって有力な支持療法になりうると期待されていますが、炭水化物の制限等、具体的な食事の摂り方については明らかになっていません。今回、癌ケトン食治療コンソーシアムで癌治療に有効なケトン食療法を開発し、様々な癌腫の患者(ステージIV)を対象に症例研究を実施しました。研究に参加した55人の患者のうち、3か月間ケトン食療法を実施した37人の患者のデータを分析しました。その結果、食事に関連する重篤な有害事象は観察されませんでした。PET-CTの診断の結果、開始3か月の時点で5名の患者が部分奏効を示しました。また開始1年後には、3人の患者が完全奏効し、7人の患者が部分奏効でした。生存期間の中央値は32.2(最大:80.1)か月で、3年生存率は44.5%でした。また、ケトン食療法の開始3か月後における、血清Alb値、血糖値、CRPによる評点(ABCスコア)を使用して、患者を層別化すると生存率が有意に異なることが明らかになりました。今回の結果から、大阪大学で開発したケトン食療法は、様々な種類の進行がん患者に対して、有望な支持療法になる可能性が示されました。
用語説明
※1 ケトン食
高脂肪、且つ炭水化物を制限した食事です。この食事を続けるとからだの中でエネルギー源としての糖が不足し、代わりのエネルギー源となるケトン体が、主に肝臓で脂肪酸や一部のアミノ酸から作られます。このケトン体は肝臓を除く様々な体の器官、正常な組織で使われます。一方で、がん組織ではケトン体が利用されにくいとされています。
※2 中鎖脂肪酸油(MCT)
広義には炭素の数が6個から12個までの脂肪酸(中鎖脂肪酸)で構成される油脂の総称です。中鎖脂肪酸はココナッツオイルや牛乳にも含まれています。今回のケトン食には炭素数が8個の脂肪酸であるカプリル酸を多く含む油脂(日清MCTオイルなど)を使用しました。一般に、中鎖脂肪酸の中でも炭素数が少ないものの方が、ケトン体が産生され易いとされています。一方で炭素の数が14個以上の脂肪酸から構成される油脂が長鎖脂肪酸油(LCT)で、食品や調理に一般的に使用されている油です。LCTに比べMCTは摂取後に速やかに消化、吸収され、その一部が肝臓でケトン体に変換されます。
※3 明治ケトンフォーミュラ
生まれつき糖質をエネルギーとして利用できない先天代謝異常や、薬で治療が困難な難治性てんかんなど、お子さまのケトン食療法のために使用される粉ミルクです。明治ホールディングス㈱傘下の㈱明治で製造を行い、特殊ミルク事務局を通じて医療機関に提供しています。