研究・業績

神経免疫グループ

奥野先生写真

多発性硬化症や視神経脊髄炎をはじめとする神経免疫疾患にはここ10年で様々な治療が開発され、かつての難病から治療可能な疾患に変わりつつあります。次々に登場する新薬を使いこなし、診療を改善していくには神経内科医が免疫学に精通して研究を行うことが重要です。 我々大阪大学神経内科神経免疫グループは、これまで教室が築き上げてきた神経内科学と阪大の先人達が積み上げてきた膨大な基礎免疫研究を融合させ、

  1. 神経内科と免疫学に精通し最先端の免疫診療を患者さんに提供する。
  2. 様々な基礎の研究室と共同研究を行い、大阪大学で生まれた免疫関連のシーズを神経内科領域で臨床応用する。
  3. 患者さんから頂いたサンプルを最新のテクノロジーを用いて解析し、神経免疫疾患診療の進歩に役立つオリジナルの研究成果を発信する。
ことを目標に掲げ、日夜努力しています。

神経免疫疾患診療について

当院では多発性硬化症、視神経脊髄炎、慢性炎症性脱髄性多発神経炎をはじめとする多数の神経免疫疾患の患者さんが診療を受けておられます。 近年この領域では様々な治療薬が開発されていますが、進行性多巣性白質脳症などの副作用を伴うものもあり、使用に際しては疾患の活動性と安全性及び効果のバランスを考える必要があります。 これらの疾患の診療については、気軽にご相談ください。当グループの出身者は富山大学の中辻教授を始めとして様々な施設で神経免疫診療と研究に従事しています。

奥野 龍禎

研究紹介

我々は多発性硬化症、視神経脊髄炎などの神経免疫疾患の病態を解明し、現在の診療をより良いものにするための研究に力を入れています。また神経変性グループと協力しながら筋萎縮性側索硬化症やパーキンソン病などの神経変性疾患についても免疫という観点から研究を行い、少しでもこれら難治性疾患患者さんに役立つため研究を続けております。

多発性硬化症(MS)と視神経脊髄炎(NMO)の病態研究と治療法開発

MSについてはその動物モデルである実験的自己免疫性能脊髄炎を用いて病態を研究してきました。 呼吸器・免疫アレルギー内科及び分子神経科学との共同研究によりIL-6やセマフォリン* RGM* 等の分子の役割が明らかになり、診断や治療法の開発につなげつつあります。NMOについては我々のグループの木下が、NMO患者さん由来の抗体をパッシブトランスファーすることにより世界で初めてNMO動物モデルを論文報告し、患者さんに出現するアクアポリン4(AQP4)抗体の病原性を証明しました。

この研究によりNMOが自己抗体病であることが確定され、治療法が確立されつつあります。さらに髄液細胞から抗体遺伝子をクローニングし、モノクローナルAQP4抗体を合成することによりNMO動物モデルの改良と病態解明を行っております。最近はミトコンドリアや活性酸素種(ROS)やエクソソームなどにも注目して研究を行っております。研究に際しては動物実験で得た知見は全て患者さんのサンプルでその意義を確認し、臨床応用していくことをより重視しています。

セマフォリン*:元々神経軸索ガイダンス因子として同定された分子群であるが、神経系以外にも免疫、血管、骨、癌においても重要な働きをもつことが知られる。免疫に関与するセマフォリンは免疫セマフォリンと呼ばれる。

RGMa*:RGMは反発性軸索ガイダンス因子の略で、胎生期の網膜神経の伸長にかかわる因子として発見された。免疫系の調節にもかかわることが示唆されている。

腸管免疫研究

近年世界的に多発性硬化症の患者数は増加していますが、食生活の変化や衛生環境の変化といった環境因子が大きく影響していると考えられています。当グループは環境因子の中でも特に腸内細菌と腸管免疫に着目して、多発性硬化症を改善しうるプロバイオテイクス* や食事成分を探索しています。

またパーキンソン病でも腸管は病初期から変化がみられるところであり、免疫制御学及び微生物病研究所感染症メタゲノム研究分野と共同で神経疾患における腸内環境の解析を始めています。 多発性硬化症やパーキンソン病の発症機序に迫るとともに、食の改善による、安全かつ安価な治療確立が目標です。

プロバイオテイクス*:腸内菌叢のバランスを改善することで体調を改善する微生物、もしくはそれらの増殖を促進する物質。

多発性硬化症、視神経脊髄炎のバイオマーカー開発

多発性硬化症や視神経脊髄炎に対しては近年多数の治療薬が実用化され、かつての不治の神経難病というイメージは薄れつつありますが、前述のように効果の高い疾患修飾薬には重篤な副作用を伴う場合があり、多数の薬剤をどのように使い分けるかという大きな問題が出てきています。

我々はSema4Aというセマフォリンが多発性硬化症の血液中で増加し、血液中でSema4Aが高値を示す多発性硬化症患者さんは第一選択薬であるインターフェロンβが効きにくいことを報告しました。

多発性硬化症には血液バイオマーカーは存在しないため、治療選択マーカーとしての確立に努めています。また我々は核医学教室と共同で脳内のアストロサイト代謝を反映する11C -酢酸PET検査を用いた研究を行い、多発性硬化症では正常者や視神経脊髄炎と比べて取り込みが増加していることを報告しており、画像バイオマーカーとしての臨床応用を目指しています。

神経変性疾患における免疫機序についての研究

当グループでは筋萎縮性側索硬化症やパーキンソン病等における免疫機序について10年以上前より研究を行ってきました。これまでミクログリアを介した炎症機転やヘルパーT細胞が神経変性過程に大きく寄与することを報告しました。

炎症以外にも血流や神経筋接合部などの非神経系に注目して研究を行っています。難治性神経変性疾患の克服には多面的なアプローチが必要と考えられますので、我々の取り組みが実を結ぶことを夢みて研究を続けています。

メンバー紹介

  • 奥野 龍禎 准教授
  • 大阪大学は免疫研究のメッカですが、その環境を生かし、若い人と一緒に神経内科医にしかできない免疫の研究をやっていきたいと思っています。主に多発性硬化症と視神経脊髄炎に取り組んでいますが、腸管免疫と神経変性における免疫機序にも興味を持っています。登山と釣りが趣味ですが、なかなかまとまった時間が取れないため、最近は出先での街歩きに凝っています。歴史のある所を歩くと街の成り立ちと人との関わりが良く見えて面白いです。
  • 木下允 特任講師
  • 大阪の難病センターである関連病院で多くの多発性硬化症を始めとする免疫疾患の患者さんの診療をさせて頂くと同時に、大阪大学免疫グループでの研究ミィーティングにも参加し、臨床現場と基礎研究の経験を活かせるよう日々邁進しております。臨床の現場では日々患者さんから多くの事をおしえて頂いています。抗アクアポリン4抗体および粘膜免疫の基礎研究にこれまで従事してきました。今後は是非私の経験を患者さんに還元できるよう免疫グループのチームと一緒に頑張っていきたいと考えております。
  • 甲田(未来医療センター 特任助教)
  • 大学院生
  • 木原 圭梧
  • 保健学科学部生
  • 金倉弥那美
  • 招聘教員
  • 多田、清水、石倉、村田、別府、安水良明

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最近の業績

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