教室紹介

年度報告

2017年度報告

今年度は、少し学会活動や神経内科の方向性などについても振り返ってみたい。

先日、開業された同門の先生の開院祝いに出かけた。洗練された作りのクリニックで、院長が以前勤務されていた病院の患者さんもたくさん訪れていて安心した。少し院長と話してみると、やはり神経内科の患者さんを主体に診察したいという希望がある。幸い今年度から、神経内科の初診時神経学的診察の診療報酬が上がったこと、神経生理検査など幾つかの項目で上向き変化があり、その先生は、開業に向けて大変良かったと喜んでいた。日本神経学会では、診療向上委員会亀井委員長が中心になって行政に大きな働きかけをされたと伺った。しかし一方で、開業された先生方からは、診療報酬や開業医に関して日本神経学会や日本神経治療学会は特別な動きをしていないとご指摘されることもある。眼科や耳鼻科、精神科などは臨床医会と呼ばれる医師会とも 関連した開業医の先生を主体に地方を中心とした、学会とは異なる組織を形成している。時に、行政や議員などにも働きかけ、学会ともうまく連携しているようだ。残念ながら神経内科には、そのような組織はない。神経内科で開業された方も、かなり多くなったと聞いている。地域を中心として勉強会や相談できるような仕組みなど、神経内科の開業医、小さな病院のための組織もしくはサポートするシステムを検討する時期に来ているのではないかと思う。

 日本神経学会は、今年度ついに基本領域化に向けて動き出した。私も、基本領域科対策委員として活動したが、問題点も浮かび上がってきた。例えば、将来構想委員会が企画して、神経学会総会に行政(主に厚生労働省)から先生にお出でいただき生の声を聞くことができるようシンポジウムを数回企画しているのだが、終了後に厚生労働省の人に話を聞いて驚いた。医系技官の先生でさえも神経内科が難病以外に脳卒中や認知症を診ていることをご存知なかったのである。さらに加えて、この機会に国民が神経内科のことをあまり知らないので、神経内科を広報したらどうかと指摘された。元代表理事の高橋先生も、そのことは問題視されており、神経内科の広報の重要性を理事会などで述べられた。その結果、神経内科を脳神経内科とすることを提案され、今年度実施された。日本の神経内科学の歴史に残る業績であると思う。 私自身、行政との連携を模索している時に、PMDAの方が、直接我々の医局に来られて、医局員の派遣をお願いされた。行政との連携、広い視野を持つ医師の育成も考え、当科から隅蔵医師を派遣した。続いて当科から、厚生労働省の難病対策課(NCNPに出向)に甲田医師と疾病対策課に権医師が出向している。彼らは国会を含め厚生行政を学べること、行政及び大学病院を含め関連施設の方と討論できること研究費などの立ち上げにつ いて学べることなど貴重な体験が多くあり、短期間であるが大変喜んでいる。とはいえ住居や給与の問題などもあり、生活は大変である。特に大阪から赴任するのは簡単ではない。関連病院の先生方からは、ご批判も頂いた。他学会では、色々と支援もあるようだが、それこそCOIの問題にならないように注意しながら、支援する必要があるだろう。行政と学会の連携をできるよう、日本神経学会理事会でも検討した。具体的には、行政からの問い合わせ等には、学会で迅速に応えられるように将来構想委員会でシステムを検討中である。そのような取り組みが功を奏して、厚生労働省から人事交流を推進できないか神経学会宛に依頼があった。神経学会の重要性を理解されてきたのだと思う。理事会で検討したのち、神経学会ではHPに掲載し、会員全員に厚生 労働省の人事交流に関するお知らせのメールを配信した。日本神経学会は、今後新代表の戸田先生を中心に基本領域化を目指していくが、その存在意義を示す上でもこういったことは重要な取り組みになると思うし、学会全体で行政にも理解ができる視野の広い神経内科医が少しでも育成できればと期待する。

大阪大学大学院医学系研究科 神経内科学 教授 望月秀樹
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