教室紹介

年度報告

2021年度報告

今年は、いくつかの学会活動についてご紹介します。

近年目覚ましい医療の進歩により、重症の小児科疾患の救命が可能になり、予後も改善する患者さんが増えてきました。そのために多くの重症小児疾患患者は、成人期まで生活できるようになりましたが、慢性健康障害を有するために、成人病態の治療に対して成人科の受診が必要になってきています。その際、小児科疾患の特異性のため、成人科での診療にスムーズに移行しない事が多く、小児-成人移行期医療が大きな社会問題になってきています。日本神経学会においてもこのような現状に対応できるように、2020年に日本小児神経学会からもメンバーを集い小児-成人移行期医療対策特別委員会を設置しました。私が委員長を拝命しましたので、微力ですが少しでもお役に立つように、委員と共に活動を開始しました。1)この問題点を神経内科に広報すること。2)地域ごとに異なる現状を把握してその問題点を共有する。3)多職種連携を含めてネットワークを広める。これらを目標にしております。今までの活動は、すでに「臨床神経2022 年 62 巻 4 号 p. 261-266」に発表していますのでご覧下さい。また委員会では、この問題を紹介するパンフレットも作成しました。次に添付しますのでご参照ください。

この問題は、神経内科が内科のsubspecialityになったため、神経内科専門医資格では小児神経専門医を取得できなくなりました。それにより、小児神経を目指す医師が日本神経学会では非常に少なくなり、その結果日本神経学会では小児神経を勉強する機会が減少しています。この点も意識して改革していかなければ、小児神経を全く知らない医師が増えていく可能性があります。小児神経に関する教育も日本神経学会から発信していく必要があると思います。

小児-成人移行期医療の問題は医師だけでは解決できない問題ですので、多職種連携で対応する必要があります。日本難病医療ネットワーク学会という、多職種の方で討論する学会があります。現在理事長を拝命しましたので、そちらでは枠組みを広げて多くの方の意見を聞きながら小児成人移行期の問題についても検討していきます。

もう一つの話題は、神経疾患に関する新しい治療法についてです。ご存知のように、脊髄性筋萎縮症(SMA)では、アンチセンスオリゴヌクレオチド(スピンラザ®︎)、AAVウイルスベクター(ゾルゲンスマ®︎)、筋ジストロフィー症では、アンチセンスオリゴヌクレオチド(ビルテプソ®︎)、遺伝性アミロイドーシスに対してはsiRNA(パチシラン®︎)と、進行抑制や根治を目指した遺伝子治療法が、ついに神経難病の患者さんの手に届くようになりました。遺伝子治療は、今後遺伝性神経疾患領域で、さらに進展してくと考えられます。日本遺伝子細胞治療学会は、1994年に設立され、この領域では世界でも歴史のある学会です。主に血液疾患、小児代謝疾患、癌などを中心に発展してきた学問ですが、先ほど述べたように神経疾患でも注目されるようになりました。そのような背景があり、2023年9月11日から13日まで、私が大会長を拝命し、大阪国際会議場で日本遺伝子細胞治療学会学術大会を開催することになりました。我々の教室では、長野清一先生や佐々木勉先生のウイルスベクターを用いた神経系の治療研究や、中森雅之先生、木村康義先生の核酸医薬を用いた治療研究の推進も評価されたと思います。教室一丸となって盛り上げたいと思いますので、どうぞふるってご参加頂き、未来の治療法などについて一緒に勉強しましょう。

大阪大学大学院医学系研究科 神経内科学 教授 望月秀樹
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