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平野 諒司、平田 雅之 ≪脳機能診断再建学≫ 人工知能によりてんかん検査を自動化 ~難解で時間のかかる波形判読を省力化する新技術~

2022年10月
掲載誌 IEEE Transactions on Medical Imaging

図1. 深層学習を用いたてんかん脳磁図の自動解析
クリックで拡大表示します

研究成果のポイント

  • てんかんの治療や手術前の検査として重要なてんかんの脳磁図検査を完全自動化
  • これまで専門医が何時間もかけててんかん波形を解析していたが、深層学習に専門医の判読を学習させることで自動化し、解析時間の短縮及び正確な診断を可能にした
  • 時間のかかる脳波検査の自動化への応用が期待される

概要

大阪大学大学院医学系研究科の平野諒司 特任助教(常勤)(研究当時)、平田雅之 特任教授(常勤)(脳機能診断再建学)らの研究グループは、株式会社リコーとの共同研究により、人工知能によりてんかんの脳磁図検査1を自動化することに成功しました。

てんかんの脳磁図検査は、正確かつ、無侵襲にてんかんの場所を調べることができ、てんかん治療、特に手術の前の検査として重要です。しかしながら、てんかん波形の判読は難解なため、専門医が何時間もかけて解析する必要があり、性能が高いにもかかわらず、普及していませんでした。

今回、研究グループは、新たに深層学習を用いててんかん波形判読システムを開発し、このシステムに専門医の判読パターンを学習させることで検査を完全に自動化することに成功しました。これにより時間のかかるてんかん脳磁図検査の普及への応用が期待されます。

研究の背景

てんかんの脳磁図検査は、脳内でてんかんが生じている場所を無侵襲で脳波より正確に調べることができます。さらに、てんかん治療、特にてんかんの場所の正確な診断が必要な、てんかんの脳外科手術の前の検査として重要です。しかし、てんかん波形の判読は難解なため、これまでは専門医が何時間もかけて解析する必要がありました。そのため、脳磁図は性能が高いにもかかわらず、一部の大学病院等にしか導入されておらず、普及していませんでした。また、欧州の研究では解析に平均8時間も要するという報告がされており、解析する医師にとっても大きな負担となっていました。

研究の内容

研究グループでは、株式会社リコーとの共同研究により、2種類の深層学習を組み合わせることで、単にてんかん波を検出するだけでなく、その時間と拡がりも正確に判読して、脳内のどこでてんかん活動が生じているかを完全に自動解析できるシステムを開発しました。2種類の深層学習に、専門医が過去に解析した400以上の検査結果を学習させることにより、医師と同等の解析性能を達成することができました。これまで専門医が解析に何時間もの時間をかけていましたが、この解析時間が不要になり、医師の負担が大幅に軽減されます。てんかん波の判読は難解で、医師により解釈に差がありますが、この手法を用いることにより、検査結果の質を均質化できることも利点です。

本研究が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果により、てんかん脳磁図検査が普及し、正確なてんかん診断が無侵襲でできるようになると期待されます。また、この手法は脳磁図だけでなく、脳波判読の自動化にも応用が期待されます。さらに、高齢者の認知能低下には、認知症だけでなく、てんかん発作が一定の割合で含まれていることが最近わかってきており、てんかんのスクリーニング等への応用も期待されます。

研究者のコメント

<平田 雅之 特任教授のコメント>

てんかん脳磁図の解析はこれまで何時間もの時間がかかり、医師にとって大変な負担となっていましたが、この自動化により医師への負担がなくなり、脳磁図検査が手軽にできるようになると期待されます。
早く実用化して欲しいとの医師からの要望が高く、それに応えたいと思います。今後は他の病院のデータも人工知能の学習に用いることによりさらに性能を高めていきたいと思います。

用語説明

※1 脳磁図
脳活動によって生じる磁気を超電導素子を用いた高感度のセンサ、約200個で計測することにより、脳のどこが活動しているかを正確かつ、無侵襲に検査できる装置。

※2 深層学習
人工知能の一手法。多層のネットワークで人工知能を構築することにより、学習に大量のデータを必要とするが、高い性能を達成できる手法。

特記事項

本研究成果は、米国科学誌「IEEE Transactions on Medical Imaging」(紙面)2022年10月号に掲載されました。。

【タイトル】

“Fully-Automated Spike Detection and Dipole Analysis of Epileptic MEG Using Deep Learning”

【著者名】

平野諒司1,2、江村拓人1,3中田乙一2、中嶋俊治2、朝井都2、下野九理子4、貴島晴彦3、平田雅之*1,3(*責任著者)

【所属】

  1. 大阪大学 大学院医学系研究科 脳機能診断再建学共同研究講座
  2. 株式会社 リコー
  3. 大阪大学 大学院医学系研究科 脳神経外科学
  4. 大阪大学 大学院連合小児発達学研究科

      【DOI番号】10.1109/TMI.2022.3173743

      本研究は、大阪大学大学院医学系研究科脳機能診断再建学共同研究講座の研究の一環として、株式会社リコーとの共同研究として行われました。