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別宮 豪一、山下 里佳、望月 秀樹 ≪神経内科学≫ 新しいタイプのパーキンソン病を発見 ~既知の物質と異なるタンパク質の蓄積でも似た症状に~

2022年5月9日
掲載誌 Movement Disorders

図1. パーキンソン病の発症メカニズム
(左)従来知られていたαシヌクレインの蓄積によるPD 
(右)今回新たに発見したTDP-43の蓄積を原因とするPD 
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研究成果のポイント

  • 筋萎縮性側索硬化症や前頭側頭型認知症といった神経変性疾患の病態に関与していることが知られていたトランス活性化応答因子DNA結合蛋白質-43TDP-431の異常蓄積により引き起こされるパーキンソン病(PD2の症例を報告
  • これまでPDの病態に関与することが知られていたαシヌクレイン3の蓄積は全く見られず、TDP-43の異常蓄積が単独で中脳黒質のドパミン神経細胞死を引き起こし、PD様の神経症状を呈することを明らかにした
  • PDの病態解明や治療法開発を行ううえで、TDP-43の関与も念頭に置く必要があると考えられる

概要

大阪大学大学院医学系研究科の別宮 豪一特任講師(常勤)、大学院生の山下 里佳さん、望月 秀樹教授(神経内科学)らは、大阪刀根山医療センター脳神経内科の井上 貴美子医師と共同で、トランス活性化応答因子DNA結合蛋白質-43TDP-43)の異常蓄積単独により引き起こされたパーキンソン病(PD)の症例を報告しました(図1)。

PDは、中脳黒質のドパミン神経細胞の変性脱落により四肢のふるえ(振戦)、動作緩慢、筋肉の硬さ(筋強剛)が出現する神経変性疾患です。これまで、αシヌクレインという蛋白質の異常凝集がレヴィ小体を形成して中脳黒質にあるドパミン神経細胞死を惹起し、これらの運動症状を発症することが知られています(左図1)。今回の症例では、特徴的な運動症状を呈し、各種検査所見や臨床経過等から臨床的にPDと確定診断されました。ところが、死後の神経病理検索では中枢神経内にαシヌクレインの異常蓄積は全く見られず、また、同じくPDに類似する症状を惹起することが知られているタウ蛋白の異常蓄積も見られませんでした。さらに、家族性PDのほか、TDP-43に関連した神経変性疾患であるペリー症候群、筋萎縮性側索硬化症、前頭側頭型認知症に関連した遺伝子の変異を網羅的に検索しましたが、特に異常は発見されず、代わりに中脳黒質をはじめとした中枢神経の広い範囲にTDP-43の神経細胞内ならびにグリア細胞内の異常蓄積が見られました。これらのことから、TDP-43に関連した全く新しいタイプのPDであることが示されました。

今後、TDP-43PDへの関与も含めた病態解明や新たな治療法開発が期待されます。

研究の背景

PDは、主に中年期以降に発症し、手足の振戦(ふるえ)や動作緩慢といった運動症状を呈する神経変性疾患です。これまでPDにおいては、神経細胞内にαシヌクレインという蛋白質の異常凝集が形成されることが病態に深く関与することが知られていました。一方で、トランス活性化応答因子DNA結合蛋白質-43TDP-43)は筋萎縮性側索硬化症や前頭側頭型認知症といった別の神経変性疾患の病態に関与していることが知られています。

研究の内容

研究グループは、大阪刀根山医療センターで典型的パーキンソン病として治療していた患者の剖検と病理診断を行ったところ、αシヌクレインの蓄積を一切伴わず、TDP-43の異常蓄積のみで中脳黒質のドパミン神経細胞死が引き起こされることを発見しました。あわせて、神経変性疾患に関連する遺伝子を網羅的に検索しましたが異常は検知されなかったことから、全く新しいタイプのパーキンソン病であると考えられます。

本研究が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果により、TDP-43単独で黒質のドパミン神経細胞死が惹起されることが示されました。今後は、パーキンソン病の病態を考えるうえでαシヌクレインのみならず、TDP-43の関与を念頭に置く必要があります。

用語説明

※1 トランス活性化応答因子DNA結合蛋白質-43(TDP-43)
主に細胞内の核に発現する蛋白質で、筋委縮性側索硬化症や前頭側頭型認知症といった神経変性疾患の病態に深く関与することが知られています。

※2 パーキンソン病(PD
主に中年以降に発症する神経変性疾患の1つで、手足のふるえや動作緩慢といった運動症状を呈します。

※3  αシヌクレイン
中枢神経に豊富に発現している蛋白質で、これが神経細胞内で凝集体を形成することがパーキンソン病の病態に深く関与することが知られています。

特記事項

本研究成果は202259日に、米国の学術雑誌「Movement Disorders」オンライン版に掲載されました。

【タイトル】

“TDP-43 proteinopathy presenting with typical symptoms of Parkinson’s disease”

【著者名】

Rika Yamashita1, Goichi Beck1*, Yuki Yonenobu1, Kimiko Inoue2, Akihiko Mitsutake3, Hiroyuki Ishiura3, Masato Hasegawa4, Shigeo Murayama1, 5, 6, and Hideki Mochizuki1* (*責任著者)

【所属】

  1. 大阪大学 大学院医学系研究科 神経内科学
  2. 独立行政法人国立病院機構 大阪刀根山医療センター 脳神経内科
  3. 東京大学医学部附属病院 脳神経内科
  4. 公益財団法人 東京都医学総合研究所 認知症プロジェクト
  5. 地方独立行政法人 東京都健康長寿医療センター 高齢者ブレインバンク
  6. 大阪大学 大学院連合小児発達学研究科 附属子どものこころの分子統御機構研究センター ブレインバンク・バイオリソース部門

【DOI番号】10.1002/mds.29048

本研究は、本研究結果は、日本学術振興会・科学研究費補助金「基盤研究(C)」、日本学術振興会 ・科学研究費補助金「新学術領域研究」、日本医療研究開発機構「脳とこころの研究推進プログラム(精神・神経疾患メカニズム解明プロジェクト)」などの支援を受けて行われました。