教室紹介

年度報告

2019年度報告

COVID-19の状況が、日本においてもピークを迎えております。神経救急疾患では、意識障害を来すために、誤嚥性肺炎が必発であり、正面からこの問題に対応しています。我々の施設でもマニュアルを作成し、チーム編成を新たに組んでいます。この時期だからこそ、徹底的に神経救急を学ぼうと、医局員一同で取り組んでいるところです。COVID-19の世界的終息を祈念いたしております。

今年度は、医局から多くの研究成果が報告されましたので、研究グループの活動を中心にご紹介します。まず、当科中森が、ハンチントン病の新規治療薬の開発に成功し、その成果をNature Genetics誌に掲載しました。これは大阪大学産業科学研究所の中谷和彦教授との共同研究で、異常に伸長したCAGリピートが形成する特徴的なDNA構造に結合する核酸標的低分子化合物を用いて、CAGリピートを短縮する事に成功しました。Nature Genetics誌の表紙を飾り、Science誌のeditor topicsでも紹介され、世界中から賞賛を頂きました。中森らは、ここまで5年以上の歳月をかけて成果を上げましたが、さらに現在は、他の脊髄小脳変性症などにも取り組んでいます。また、同グループでは、筋強直性ジストロフィー症に対して、エリスロマイシンを用いた治療効果について報告してきましたが、AMEDの支援を受けて、全国多施設で安全性、有効性を検討する新規治験が開始されます。

変性疾患では、長野が中心となってHGF治験をALSで推進しています。また長野は、TDP-43によるリボソームタンパク質mRNAの軸索輸送の障害がALSの発症と関連していることを発見し、Acta Neuropathologicaに報告しました。パーキンソン病関係では、荒木(現市立豊中病院)がパーキンソン病剖検脳を用いて、脳内αシヌクレインの構造を世界で初めて解明しました。こちらはPNASに発表後、国際MDS学会でも優秀論文として取り上げられ、高く評価されています。また、角田、池中らは、大阪大学蛋白研究所の後藤祐児教授との共同研究で、パーキンソン病患者髄液から診断可能なシステムを構築して、Scientific Reportに発表しました。パーキンソン病の診断に役立つ可能性があり、多くのmediaに紹介されました。早川、馬場らは、人の病態に非常に近いパーキンソン病の動物モデルを、αシヌクレインのpropagation仮説に基づき作成することに成功し、Movement Disorders誌に発表しました。新薬開発に有用と期待されています。木村も新年度から大学に戻り、皆でαシヌクレインにfocusし、パーキンソン病の病態の解明と治療開発をさらに推進します。

神経臨床研究では、その中心を担ってきた服部憲明准教授が、冨山大学医学部附属病院リハビリテーション科教授として就任しました。ニューロリハビリテーションの第一人者として、日本をリードする活躍が期待されます。このグループの研究面は、乙宗、三原(現川崎医大)、服部がパーキンソン病の転倒頻度とfMRIを用いた解析について、parkinsonism and related disorder誌に報告しました。現在は、パーキンソン病の前向き研究とfMRIを用いた解析に加え、ゴルファーのイップス研究などにも取り組んでいます。

脳循環研究では、基礎研究で、河野、佐々木らが、大阪大学健康発達医学の島村宗尚准教授と共同研究で、脳梗塞におけるMDSC(骨髄由来免疫抑制細胞)の機能解明を行い、PLOS ONEに発表しました。神吉らは、高脂肪食モデルはトロンビンパラドックスに関与するPAR-1 Biased signalingの良いモデル系になること、及び、新たな発光技術を用いたGPCRイメージング系の確立を行い、Cell death & Diseaseに発表。北野らは、環境医学講座、医療情報部、医療統計学との共同研究において、担癌脳卒中患者の癌化学療法の脳梗塞発症への寄与について検討しました。癌化学療法は癌のステージで補正すると、脳卒中発症の危険因子とはならないことをThromb Haemost誌に報告。現在では、癌と脳卒中の成因について、基礎から臨床に至る統合的解析、密着結合に注目して研究を推進しています。脳卒中臨床では、藤堂が、多施設共同研究で血栓回収療法の長期予後について筆頭著者としてCereverovasc Disに発表しました。岡崎らは、国立循環器病研究センターとの共同研究において若年発症の頭蓋内主幹動脈狭窄患者におけるもやもや病RNF213 p.R4810K遺伝子変異との関連性をStroke誌に報告しました。村瀬らは、心臓血管外科との共同研究で、長期間LVAD 装着症例の、LVAD離脱後 MRI を撮像した症例の脳微小出血、脳表ヘモジデリン沈着につき、J Heart Lung Transplant誌に報告しました。また、北野らは、RESCUE-Japan Registry 2多施設共同研究で、EVT治療のTICI-3、TICI-2b症例における患者背景やpuncture-to-reperfusion時間などを検討し、Sci Rep誌に報告しました。今後、更に担癌脳梗塞の成因、新規診断デバイスの開発研究、緊急血行再建術と臨床転帰、原因不明脳梗塞を対象として、植込み型心電計留置症例の多施設登録研究、心房細動検出の機器開発などを進める予定です。

神経免疫研究では、清水、奥野がNMO患者の髄液細胞からモノクローナルAQP4抗体を作成し単球を介した炎症について検討して、Scientific Reportsに報告しました。清水は、本研究でECTRIMS 2019のポスターアワードを受賞しました。また、小河、奥野は、大阪大学遺伝統計学の岡田随象教授のご指導で、日本人の多発性硬化症とNMOの疾患感受性HLA遺伝子についてJ Neuroinflammation誌に報告し、小河は日本神経免疫学会のYoung Neuroimmunologist Awardを受賞しました。また甲田と奥野はMSにおけるSema4AとTh17についてJ.Neuroinflammation誌に、酢酸PET を用いたMSの脳内のアストロサイト活性化評価についてJCBFM誌に論文報告を行いました(核医学との共同研究)。

別宮が留学から帰阪して、神経病理研究の充実を計りました。秀嶋、別宮で遺伝性ALSのL126S SOD1変異の病理詳細についてNeuropathologyに発表しました。来年度から大阪大学発達小児学に村山繁雄先生が特任教授として赴任され、回診やブレインバンクの設立や神経病理検討会など臨床面も充実していく予定です。

また、寄附講座である大阪大学認知症探索治療学の永井義隆教授も今年度大きな成果をあげました。L-アルギニンがポリグルタミンタンパク質の構造を安定化して凝集を抑制し、SCAの治療薬となることを新潟大学との共同研究でBrain誌に報告しました。この研究は、AMED支援のもと、多施設共同研究で医師主導治験を開始します。

最後に、大変残念なことに同門の堺竜介先生が若くしてご逝去されました。大阪大学認知症探索治療学の永井義隆教授との共同研究で、家族性パーキンソン病の発症機序についての論文をPlos Oneに発表して、市立東大阪病院で活躍しているところでした。心よりご冥福をお祈りいたします。

大阪大学大学院医学系研究科 神経内科学 教授 望月秀樹
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