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第381回 大阪大学臨床栄養研究会(CNC)

第381回 大阪大学臨床栄養研究会(CNC)
日時平成29年10月16日(月)18:00~
場所大阪大学医学部講義棟B講堂
演題本当は怖い脂肪肝~NASHの病態と治療~
演者

国立病院機構九州医療センター 肝臓センター
中牟田 誠 先生

概要

今、肝疾患は大きな転換期にあります。多くの人を苦しめてきたC型肝炎が短期間の経口抗ウイルス剤の服用でほぼ治癒する時代となりました。一方、生活習慣病のひとつである脂肪肝は年々増加しています。以前、脂肪肝は良性の疾患と考えられていましたが、脂肪肝の中にC型肝炎同様に肝硬変や肝癌に進行していくもの、今日のお話のタイトルにあるNASH (Non-Alcoholic SteatoHepatitis、非アルコール性脂肪肝炎)の存在が明らかになりました。現在、日本では脂肪肝は成人の10人に1人が罹患しており、NASHはその10%、C型肝炎患者数より多い200万人が罹患していると推測されています。事実、C型肝炎由来の肝癌は年々減少していますが、NASHを含む非ウイルス性由来の肝癌は増加の一途であり、両者はほぼ同数になっています。従って、今、脂肪肝の治療が重要であり急務となっています。ただ、脂肪肝はC型肝炎と違い生活習慣に基づいており、自分自身と対峙しなければならず、また肝臓以外の臓器、例えば脳(食欲)、筋肉、腸を含めた体全体で見ていく必要があります。
脂肪肝の治療の基本は減量であり、これに勝るものはなく、食事療法が根本となります。しかしながら、実際には食事をコントロールするのはなかなか困難です。これには脳(食欲)、特に報酬系回路、が大きく関与しており、過食者においては、コカインなどの薬物中毒と同様のことが起きていると考えられています。次に、なんとかダイエットで減量ができたとしても、それだけでは筋肉も減ってしまい基礎代謝も低下してしまいます。ですから運動で筋肉を維持・増強することも不可欠です。また、筋肉はただ収縮する物理的作用だけではなく、マイオカインというホルモンを出して全身の臓器の代謝を制御しています。さらに最近は腸内細菌が脂肪肝の形成に重要な働きをしていることが分かってきました。肥満者と非肥満者では腸内細菌叢が違っています。また驚くべきことに、肥満者の便を無菌マウスに移植するとマウスが肥満になる、逆に痩せた人の便を肥満者に移植するとメタボが改善することなどが報告されています。このような作用は、腸内細菌により分解された食物繊維、すなわち短鎖脂肪酸などによるものと考えらえています。乳酸菌などの菌の摂取をプロバイオティクス、菌の餌となる食物繊維などの摂取をプレバイオティクス、両者を合わせたものがシンバイオティクスです。
NASHに対する薬物治療は、現在、いくつかの治験が行われていますが、今のところC型肝炎と違って特効薬はありません。やはり食事が基本です。昔から「腹、八分」と言いますが、この2割のカロリー制限こそが、現時点で虫から霊長類まで唯一長寿を可能としうる手段です。食は「人を良くする」と書きますが、人を良くするも悪くするも食次第ということになります。そして運動も忘れずに。

世話人 消化器内科 巽 智秀先生
E-mail: tatsumit@gh.med.osaka-u.ac.jp
次回は栄養マネジメント部栄養管理室 長井 直子 先生のお世話で平成29年11月13日開催予定です。