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第402回 大阪大学臨床栄養研究会(CNC)

第402回 大阪大学臨床栄養研究会(CNC)
日時

令和元年11月11日(月)18:00〜

場所

大阪大学医学部講義棟2階B講堂(吹田市山田丘 2-2)

演題

パーキンソン病の病態と腸脳相関(gut-brain axis)

講師

武庫川女子大学 栄養科学研究所 福尾 惠介

概要
 パーキンソン病(PD)は、アルツハイマー病に次いで多い神経変性疾患で、有病率は人口10万人当たり約150であるが、65歳以上では1,000となり、特に女性の有病率が高い。今後高齢者の増加に伴い、PD患者の増加が懸念されている。PDは原因不明の進行性の神経変性疾患で、中脳黒質のドーパミンニューロンが変性脱落することによって、振戦、無動、筋強剛などの運動障害から最終的には歩行困難になり、ベッド上生活へと移行する。PD患者では、運動系以外に嗅覚障害、認知機能障害、起立性低血圧、胃腸機能障害などの非運動系の症状を呈するが、これらの非運動系の症状がPDの典型的な運動系症状に先行して起こることが報告されている。PDの病理学的所見として、α-シヌクレインの神経細胞内への蓄積によるレビー小体の形成があるが、最近、PD患者ではα-シヌクレインがまず腸管の神経叢に蓄積し、次に腸管のα-シヌクレインが脳へ移行してPDが発症するという、いわゆるPD発症における腸脳相関(gut-brain axis)の関与が注目されている。例えば、最近、α-シヌクレインを過剰発現するPDモデルマウスにおいて、PDに特徴的な脳での炎症や運動機能障害の発現には腸内細菌が必要であること、すなわち、抗生物質を投与したPDモデルマウスや腸内細菌を持たないマウスでのα-シヌクレインの過剰発現ではPDを発症しないことが報告されている。しかし、腸管の状態と関連の深い食習慣とPDの発症や病態との関係はほとんど明らかではない。
 一方、小腸内細菌異常増殖(small intestinal bacterial overgrowth; SIBO)は、小腸吸引液1ml中、細菌数が105 CFU/mlを超えて存在する状態で、腸管の運動が低下する糖尿病や甲状腺機能低下症とともに、PD患者においても認められ、便秘、下痢、腹部膨満感、腹部不快感、体重減少、脂肪便などの消化器症状を呈する。SIBOとPDの病態との関係では、SIBO陽性PD患者はSIBO陰性PD患者に比べ、L-DOPAの吸収遅延の割合が多いこと、除菌療法により、L-DOPAの薬物動態に影響を及ぼすことなく、運動機能を改善したことが報告されている。また、前向き研究において、SIBO陽性とPDの重症度を示すHoehn & Yahr分類や評価尺度であるUnified Parkinson’s Disease Rating Scale (UPDRS)の値が関連している可能性が報告されている。
 本講演では、PD発症や病態とgut-brain axisに関する最近の知見や、PD患者における食事と病態との関係に関する我々の研究成果を紹介する。
略歴:
1979年 鳥取大学医学部卒業
1979年 淀川キリスト教病院研修医
1982年 大阪大学歯学部助手 (生化学教室)
1988年 米国ハーバード大学マサチューセッツ総合病院博士研究員
1991年 大阪大学医学部助手 (老年病医学教室)
1998年 大阪大学大学院医学系研究科講師 (加齢医学講座)
2002年 同助教授
2003年 武庫川女子大学生活環境学部教授(食物栄養学科)
2006年 武庫川女子大学高齢者栄養科学研究センター センター長
2012年 武庫川女子大学栄養科学研究所 所長

世話人:老年・総合内科学 杉本 研
E-mail:sugimoto@geriat.med.osaka-u.ac.jp
次回第403回CNCは 腎臓内科学 猪阪善隆先生のお世話で 令和2月年1月20日(月)に開催予定です