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第384回 大阪大学臨床栄養研究会(CNC)

第384回 大阪大学臨床栄養研究会(CNC)
日時平成30年2月19日(月)18:00~
場所大阪大学医学部講義棟2階B講堂
演題慢性腎臓病患者の心血管リスクとマグネシウム
~マグネシウムは毒か、薬か~
演者

大阪大学大学院医学系研究科 腎疾患統合医療学寄附講座
坂口悠介

概要

マグネシウムは生体を構成する主要ミネラルの一つであり、循環器系や糖代謝、骨代謝において必須の役割を担っている。マグネシウム摂取不足は高血圧、虚血性心疾患、糖尿病、骨粗鬆症など多岐に渡る疾病の発症と関連する。元来、日本食にはマグネシウムが豊富に含まれていたが、昨今の食生活の欧米化に伴い、日本人のマグネシウム摂取量は減少している。
一方、慢性腎臓病患者の診療においてはマグネシウムの蓄積を過度に懸念する風潮があり、マグネシウム投与はすべからく禁忌であるかの如く認識されてきた。しかし我々の検討では、保存期慢性腎臓病患者に最も高頻度に認められる電解質異常は低マグネシウム血症であり、マグネシウムの不足した症例がむしろ一定数存在することが判明した。慢性腎臓病患者はカリウム制限を課せられるためにマグネシウム摂取量が減少することや、腸管でのマグネシウム吸収率が低下していることが一因であろう。また、尿細管障害や蛋白尿が尿中へのマグネシウム排泄を亢進させるという機序も想定される。興味深いことに、血中マグネシウム濃度の低下した慢性腎臓病患者では腎不全進行リスクや心血管イベントの発症リスクが上昇している。
血液透析患者では、確かに血中総マグネシウム濃度は上昇しているが、生理活性を有するイオン化マグネシウム濃度はほとんどの症例で基準範囲内かそれ以下であった。逆に言えば、この集団では総マグネシウム濃度を高めに保たなければイオン化マグネシウム濃度を維持できないのである。我々はこれまでに血中マグネシウム濃度の高い血液透析患者で死亡リスクが低下していることや、高リン血症に伴う心血管死亡リスクの上昇が高マグネシウム群で抑制されることを報告している。近年、マグネシウムの血管石灰化抑制効果が実験的に証明されており、血管石灰化を呈する透析患者に対するマグネシウムの投与は、従来の固定観念とは裏腹に、有望な治療選択肢となる可能性がある。慢性腎臓病患者の診療におけるマグネシウムの意義は、今後、ランダム化比較試験によってさらに明らかにされるであろう。

世話人 :大阪大学大学院 腎臓内科学 猪阪善隆
E-mail: isaka@kid.med.osaka-u.ac.jp
次回385回CNCは老年・総合内科学 杉本 研 先生のお世話で、平成30年3月12日(月)に開催予定です。