第405回 大阪大学臨床栄養研究会(CNC)
第405回 大阪大学臨床栄養研究会(CNC) | |
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日時 | 令和2年3月9日(月)18:30〜 |
場所 | 大阪大学医学部講義棟2階B講堂(吹田市山田丘 2-2) |
演題 | 『がん悪液質研究の展望』 |
講師 | 京都府立医科大学大学院呼吸器内科 |
概要 | がんに伴う病態の一つに悪液質が知られている。がんの種類によってその頻度は異なるが、一般的にがん患者の50~80%にみられ、がんによる死亡原因の20%を占めると推定されている。中でも消化器がんや肺がんでは他臓器がんに比べて悪液質合併の頻度は高い。悪液質に特徴的な症状として体重減少のほか、食欲不振や倦怠感が知られている。従来、悪液質の診断についてはEvansの基準が用いられることが多く、慢性疾患が体重減少や倦怠感を引き起こす理由として、食欲不振、炎症、インスリン抵抗性、性腺機能の低下、貧血の関与を上げている。2011年にはがん患者に合併する悪液質に焦点を当てて、ERCPCよりコンセンサスレポートが誌上報告された。同レポートではがん悪液質の定義を明確にするとともに、前悪液質、悪液質、不応性悪液質の3つのステージがあることを提唱した。また、がん悪液質を診断するために、体重減少の程度に基づく簡便なFearonの基準が作成され、臨床において用いられている。 がん悪液質の治療について、これまでにもNSAIDs、ステロイド剤、EPA、SARMなど多くの薬剤を用いた臨床研究が行われてきたが、現時点で確立された標準療法はない。一方、胃から分泌されるペプチドホルモンであるグレリンは食欲の亢進や蛋白同化作用などが知られており、抗悪液質薬の候補として注目されていた。現在、小野薬品工業社がヘルシン社と共同で開発している化合物、アナモレリンはグレリン受容体に特異的に結合し、グレリン様作用を示すことから、同剤を用いて進行がん患者を対象とした臨床試験が欧州および日本で実施された。進行非小細胞肺がんを対象に欧州で実施されたROMANA第III相試験では、アナモレリンはプラセボとの比較で除脂肪体重の有意な増加を示した。また、本邦で実施された進行非小細胞肺がん、進行消化器がんを対象とした臨床試験でも、同様に除脂肪体重の有意な増加と明らかな食欲亢進作用を統計学的に証明している。副作用として高血糖やQT延長などあるものの忍容性は良好である。一連の臨床試験における結果をもとに、現在アナモレリンの薬事承認を得るべくPMDAと協議を続けている。アナモレリンは除脂肪体重の増加には有用であるが、残念ながら筋力維持の効果は不十分である。今後はがん悪液質に対して薬物療法だけでなく、栄養療法や運動療法を含めた包括的な治療戦略の確立が求められている。 |
世話人:消化器外科Ⅱ講座 土岐祐一郎
E-mail:ydoki@gesurg.med.osaka-u.ac.jp
次回第406回CNCは産婦人科 冨松拓治先生のお世話で4月13日(月)に開催予定です。