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第405回 大阪大学臨床栄養研究会(CNC)

第405回 大阪大学臨床栄養研究会(CNC)
日時

令和3年10月11日(月)18:00〜

場所

大阪大学医学部講義棟1階 A講堂(吹田市山田丘2-2)
※Webexによるオンライン同時開催
オンラインによる参加方法はこちらをご参照ください

テーマ・講師

~腸管不全の現状:リアルワールドデータ解析と臨床例~

『本邦における成人腸管不全診療の現状とクローン病患者の腸管不全』
大阪警察病院 消化器外科部長 水島 恒和先生

『成人短腸症におけるリハビリテーションの経験』
大阪大学医学部附属病院 栄養マネジメント部 
特任栄養士 石橋 怜奈先生

概要

 短腸症候群(SBS)は小腸の一部が物理的又は機能的に失われることにより吸収不良を起こす疾患であり、小腸の広範切除もしくは先天性疾患に起因する場合が最も多い。腸管不全(IF)は一般的に腸機能障害やSBSに伴う合併症であるが、本邦における患者数は少ない。IFの主な治療目的は、残存腸管の腸管順応が得られるまで、静脈栄養(PN)により必要な栄養,水分,及び電解質を供給することであるが,本邦では,成人におけるIFを伴うSBS(SBS-IF)の原因と治療状況についてほとんど報告がない。成人におけるSBS治療のアウトカムを改善し包括的なリハビリテーションプログラムを開発するためには、本邦におけるSBS-IFの現状把握が必要である。
 希少疾患である成人SBS-IFの病因と治療効果を明らかにするため、リアルワールドの大規模データを用いた解析を行った。Medical Data Visionが提供する全国399病院の診療報酬請求データが登録されたデータベースを使用した。2008年4月から2020年1月の対象患者3,015万人から393人(男性52.2%)のSBS-IF患者を抽出し、病因、治療経過について検討した。SBS-IF患者の平均年齢は61.4歳であり、58.6%は60歳以上であった。BMIの平均値は、男性19.5 kg/m2、女性18.5 kg/m2であり、主な原因疾患は腸閉塞(31.8%)、クローン病(20.1%)および腸間膜虚血(16.0%)であった。治療経過中36.6%(n=144)の患者はPNから離脱したが、33.3%(n=48)の患者でPNが再開されていた。PNに関連した主な合併症は敗血症(67.4%)、カテーテル関連血流感染症(49.1%)、肝機能障害(45.0%)であった。
 われわれが診療しているクローン病患者162例中では21例のSBS-IFが発生しており、累積発生率は5年 2.6%、10年 3.4%、15年 8.6%であった。多変量解析では、残存小腸長<200cm、抗TNF-α抗体未使用、累積腸管炎症がSBS-IFのリスク因子であった。PNを離脱した症例は7例で、PN依存率は5年 75%、10年 75%、15年 64%であった。合併症としてカテーテル関連血流感染症(61.9%)、肝機能障害(38.1%)、カテーテル閉塞・逸脱(23.8%)を認めた。NSTが腸管リハビリテーションに関与した症例も提示する。
 クローン病に限らずSBS-IF患者がPNから離脱することは困難であり、感染症や肝機能障害を合併するリスクが高いことが確認された。SBS患者の治療とそのアウトカムの改善に向けた包括的な取り組みを行う上で、SBS治療の全望をより深く理解することが重要であると考えられる。

※本研究会は医学系研究科 単位認定セミナーです。
※本研究会はどなたでもご参加いただけます。

世話人:小児成育外科学 奥山 宏臣
E-mail: okuyama@pedsurg.med.osaka-u.ac.jp
次回、第406回CNCは、産科学婦人科学 冨松 拓治先生のお世話で2月14日(月)開催予定です。