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第407回 大阪大学臨床栄養研究会(CNC)

第407回 大阪大学臨床栄養研究会(CNC)
日時

令和4年6月20日(月)18:00〜

開催方法

大阪大学医学部講義棟1階 A講堂(吹田市山田丘2-2)
Zoomによるオンライン同時開催
Webによる参加方法はこちらをご参照ください

テーマ・講師

~がん悪液質研究の展望~
京都府立医科大学大学院 呼吸器内科
教授 髙山 浩一 先生

概要

 がんに伴う病態の一つに悪液質が知られている。がんの種類によってその頻度は異なるが、一般的にがん患者の50~80%にみられ、がんによる死亡原因の20%を占めると推定されている。中でも消化器がんや肺がんでは悪液質合併の頻度は高い。悪液質に特徴的な症状として体重減少のほか、食欲不振や倦怠感が知られている。従来、悪液質の診断についてはEvansの基準が用いられることが多く、慢性疾患が体重減少や倦怠感を引き起こす理由として、食欲不振、炎症、インスリン抵抗性、性腺機能の低下、貧血の関与を上げている。2011年にはがん患者に合併する悪液質に焦点を当てて、ERCPCよりコンセンサスレポートが誌上報告された。同レポートではがん悪液質の定義を明確にするとともに、前悪液質、悪液質、不応性悪液質の3つのステージがあることを提唱した。また、がん悪液質を診断するために、体重減少の程度に基づく簡便なFearonの基準が作成され、臨床において用いられている。
 がん悪液質の治療について、これまでにもNSAIDs、ステロイド剤、EPA、SARMなど多くの薬剤を用いた臨床研究が行われてきたが、効果や副作用の観点から標準療法は確立されたものはなかった。一方、胃から分泌されるペプチドホルモンであるグレリンは食欲の亢進や蛋白同化作用などが知られており、抗悪液質薬の候補として注目されていた。グレリン受容体に選択的に結合するアナモレリンはグレリン様作用を示し、同剤を用いて進行がん患者を対象とした臨床試験が実施された。本邦で実施された進行非小細胞肺がん、進行消化器がんを対象とした臨床試験では、除脂肪体重の有意な増加と明らかな食欲亢進作用が認められ、2021年にがん悪液質を適応とするグレリン作動薬として初めて薬事承認を受けた。副作用として高血糖や不整脈などあるものの、重篤な副作用は少なく忍容性は良好である。一方、アナモレリンは除脂肪体重の増加には有用であるが、残念ながら筋力維持の効果は不十分である。今後はがん悪液質に対して薬物療法だけでなく、栄養療法や運動療法を含めた包括的な治療戦略の確立が求められている。講演では本邦で実施された臨床試験の結果を振り返り、今後のがん悪液質治療について展望する。

※本研究会は医学系研究科 単位認定セミナーです。
※本研究会はどなたでもご参加いただけます。

世話人: 消化器外科Ⅱ 土岐祐一郎
E-mail: ydoki@gesurg.med.osaka-u.ac.jp 
次回、第408回CNCは小児科 木村武司先生のお世話で10月17日(月)開催予定です。