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第397回 大阪大学臨床栄養研究会(CNC)

第397回 大阪大学臨床栄養研究会(CNC)
日時

令和1年5月13日(月)18:00〜

場所

大阪大学医学部講義棟2階B講堂(吹田市山田丘2-2)

演題

がん治療における骨格筋量維持の意義 -骨格筋は多機能臓器-

講師

大村 健二 先生 上尾中央総合病院  

概要

生化学の世界では、運動が代謝を好ましい状態に導くことが分かっていた。実際、運動はインスリン非依存性にGLUT4を細胞膜にトランスロケーションさせ、骨格筋へのグルコースの取り込みを促進する。さらに近年、骨格筋量の多寡が様々な疾患の予後や治療成績に影響を及ぼすことが判明した。がん診療の分野でも、様々ながん種でサルコペニアは予後不良因子であることが示されている。また、術後の体重や除脂肪体重の高度の減少は、術後補助化学療法の忍容性を低下させ、ひいては予後に悪影響を及ぼす可能性が指摘されている。
マウスを用いた実験で、運動後の血清を加えた培地内では、ヒト乳がん細胞株MCF-7細胞の増殖が有意に抑制されることが報告された。また、アポトーシス関連酵素であるcaspaseの細胞内活性は、運動後の血清を加えた培地内で培養したMCF-7細胞内で有意に高まっていた。骨格筋の収縮は、ある種のミオカインを介してがんの予後に好影響を及ぼしている可能性がある。
運動によって、主として遅筋線維において転写共役因子PGC-1αが発現する。PGC-1αは、レジスタンストレーニングによって遅筋に生じる好ましい変化のほぼすべてを司る。また、白色脂肪を褐色脂肪に変化させる作用も有する。PGC-1αは、うつを引き起こすキヌレニンを無毒化するキヌレニンアミノトランスフェラーゼ(KAT)を活性化する。動物実験で、キヌレニンの投与は食欲を低下させることが判明している。健康なボランティアを対象にした研究では、運動後にPGC-1αとKATの発現亢進が確認された。したがって、がんの進行がもたらすうつ状態と食欲の低下には、運動が効果的と考えられる。さらにPGC-1αには、がん悪液質にみられる骨格筋の萎縮に関与するミオスタチンを抑制する作用もある。
このように、骨格筋は単なる運動器ではなく、骨格筋自身や他の臓器の機能・代謝を調節する多機能臓器なのである。

世話人:大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻 梅下 浩司
 E-mail: umeshita@sahs.med.osaka-u.ac.jp
次回、第398回CNCは、大阪大学保健センター 守山敏樹先生のお世話で、6月10日(月)に開催予定です。