教授リレーエッセイ

医学の日進月歩と生涯勉強 呼吸器外科学 新谷 康

呼吸器外科学
教授 新谷 康

先日、薬学部に通う長女が試験勉強をしていました。漢方薬の名前、効能を必死で覚えていました。翌週には、ある新薬について聞いてきました。薬剤師をめざす学生は、どれほどの薬剤を習うのでしょうか。もちろん彼女たちは、薬学だけでなく、生理学、解剖などいろいろな分野を勉強しています。毎日眠そうな顔を見るとかわいそうに思います。
 
最近の医学はすさまじいスピードで進歩していて、まさに「日進月歩」です。私が専門とする肺がん外科領域の最近のキーワードは、「低侵襲手術」です。研修医の時には、胸を大きく開けて手術を行っていましたが、だんだんと傷が小さくなり、15年前からカメラを使った胸腔鏡手術(3cm程度の傷と数か所の穴で行う肺がん手術)が普及しました。
さらに現在では、ロボット支援手術(高精度の手術用ロボットを外科医が操る内視鏡手術)や単孔式手術(3cm程度の傷だけで行う手術)で行うようになりました。患者さんの胸壁侵襲が少なく、早期離床・退院が可能と考えられています。
 
しかし、一般的には、低侵襲手術が適応となる肺がんは早期肺がんであり、進行肺がんでは依然開胸手術が必要です。若手外科医は開胸手術から低侵襲手術まで幅広く習得しなければなりません。また、肺がん治療における薬剤開発は、外科の進歩どころではなく、「分子標的薬」「免疫チェックポイント阻害剤」の出現で、肺がんの治療法が大きく変わりました。私は外科医なので、進行肺がんでも手術で切除した方が患者さんによいと考えてきましたが、最近は進行肺がんに対して、放射線、抗がん剤治療に免疫療法を加える治療が手術に負けない成績である可能性が示されました。もちろん手術は根治をめざす「がん治療」ですので、まだまだ治療の選択肢としては残っていくでしょう。
  
ただ、今後のがん治療は、個々のがんの遺伝子を分析した結果をもとに薬剤を選ぶ「ゲノム医療」に向かって進んでいます。将来は「ゲノム医療」が、外科治療がよいのか内科治療がよいのかを決定するツールになり、患者さんのさらなる個別化医療につながるはずです。医療人はまず専門職として医学的知識と技術をもたなければならないことは当然ですが、患者さんに最良最新の医療を届けなければなりません。「生涯勉強」「終生勉強」などは、あらゆる分野であてはまる言葉ですが、医学医療ではとくに重要であり、生涯にわたり医療人が効率的に学習を継続できるような環境整備を積極的に進める必要がありそうです。とくに医療にかかわる学生は、これまでの医学的知識に加えて、今後進歩していく医学の勉強が飛躍的に増加します。本当に大変だと思います。教員として、少しでも楽しめる講義、クリニカルクラークシップを行ってあげたいと、改めて感じます。
 

教授 新谷 康
外科学講座 呼吸器外科学
阪大呼吸器外科は単独講座として平成19年(2007年)に開設され、令和元年(2019年)より私が診療科長を担当しています。最善の呼吸器外科医療を提供するとともに、これまでの基礎研究の実績に基づくトランスレーショナルリサーチの実践に力を入れ、先進医療の開発・普及に努めていきます。