教授リレーエッセイ

創設から二十年を迎えた保健学科 保健学専攻 医療技術科学分野 機能診断科学講座(神経機能診断学) 依藤 史郎

保健学専攻
医療技術科学分野 機能診断科学講座(神経機能診断学)
教授 依藤 史郎

いま巷ではabenomicsの考えのもとにデフレを脱するため矢を放ち、 失われた二十年を取り戻そうという雰囲気に満ちています。東京で二度目の オリンピックが決まり、景気の先行きになんとなく明るい兆しを感じる人も いるかもしれません。しかし、この二十年間に何もかも失ってしまったので しょうか? 確かに給料は減る、資産価値は下落し、株価は下がり、 と散々な目にあった話は耳にタコができるほどです。しかし日本が先進国から 脱落したわけではなく、内乱が起きて政情不安になるわけでもなく、 治安はそれなりに安定しており着実な日本人の営みはクールジャパンとして 海外から称賛の声も一方では聞こえてきます。

そのような負の二十年にあって、私の所属する保健学科は、平成5年に産声を あげ翌年第1期生を迎えてから二十年が経過し、失われた二十年とされる時期に ほぼきれいに重なっています。バブルが崩壊した当時、世の中の人が本当に 欲するものは健康であり、贅沢品ではないと言われました。各家庭に家電製品は 満ち溢れる一方で、企業は新しい戦略を展開する力を失い、日本を代表する 家電会社の凋落はこの時に始まっていたと感じます。経済の分野では確かに 多くのものを失った一方で、医療の分野では我が保健学科は、複雑化高度化する 二十一世紀の医療を自ら担うことのできる優秀な医療人を多数輩出するよう 奮闘し、既に一期生以下医療界を支える人材として各分野で活躍しています。 この間経済低迷に加え制度変更のあおりを受けて医療崩壊が進行したことも事実 ですが、一方で医療者側の意識改革が想像を超える勢いで行われた結果、 全体として望ましい方向に進んでいて保健学科の卒業生もそれに貢献していると 思います。
ものづくりの大切さは否定しませんが、より重要なのは人づくりで、優秀な 学生を呼び込んで育て上げれば、あとは自分で活躍の場を開拓していくものです。 成人式を迎えた保健学科は、次世代を担う有能な医療人を益々輩出していかねば なりませんが、毎年入学してくる学生をみていると優秀であることは疑いの 余地がありません。看護・放射・検査の3つの学部生はそれぞれの国家試験を 目指しますが、国家資格取得は通過点でしかありません。資格を持った上で 活躍の場を国内外に如何に自ら求めていくかが重要で、学生を一定の枠に はめ込んでしまうのはよくありません。看護、診療放射線、臨床検査の各資格を 持ちながら思いがけない分野で活躍する卒業生達がそろそろ出てくるのではない かと、創設時に赴任し定年があと数年の一教員として心より楽しみにしている ところです。