教授リレーエッセイ

竹とんぼ 綿飴 うどん 動物実験施設 中尾 和貴

子供の頃、竹とんぼを作っては競い合いました。竹細工はお手のものなのですが、私のものだけ明らかに飛びません。悔しくて何度も作るのですが、すべて駄目でした。この謎は数年後、立ち読みしていた手作りおもちゃの本で解決します。プロペラの削り方を正しく知らなかった私は興奮し、その本を買い求め、適当に竹を採ってきてすぐ作ってみると、その竹とんぼは見事に天高く飛んで行きました。この時、何かを作る時には理屈をしっかり考えることが重要だと学びました。


この本には綿飴器の作り方も載っていました。穴の開いた容器にザラメ糖を入れて、加熱しながら回転させるだけなので、簡単です。ここで、難なくできた綿飴初号器を理屈に基づいて改良することにしました。加熱と回転をアップグレードするため容器には電熱線を仕込み、非力なモーターをレース用高回転モーターの代表、青柳金属社製GZ1200Rに換装しました。この弍号器の試運転はまだでしたが「作りたての新鮮な綿飴を食わしてやるから」と呼びつけた友人は既に割り箸を握りしめて待ち構えています。意気揚々とスイッチを入れると部屋中に熱いザラメと大量の綿飴が吹き出し、両親にはひどく叱られ、綿飴は食べられませんでした。ここでは、条件検討の大切さを学びました。

これらはごく一部ですが、これまで多くの失敗や間違いをし、また学びました。最近、COVID-19の影響で休日は専ら自宅にいます。暇を利用して、若い頃うまく作ることができなかったバイクのプラモデルに挑戦していますが、この歳になると心穏やかに満足できる完成度で仕上げられます。これは経験を通して、失敗しても平気、と体感しているからなのでしょう。うまくいかなくても何とかなります、慌てることはありません。

閑話休題。世に名人と呼ばれる方々には、卓越に至る過程で身に着けたそれぞれのルーティンがあり、パフォーマンスに寄与する大切なもののようです。私自身はマウス発生工学のプロと自負しており確かにルーティンのようなものもありますが、人様にわざわざ紹介するのは気恥ずかしく、こっそりと行ってきました。私見ですが、実験手技を習いにくる方の多くは、このルーティンをすぐ知りたがる傾向があります。技術として身に着けてほしいポイントを教えているつもりでも、そのルーティンを披露しないと「隠していることがある、何も教えてくれない」と、熱心に聞いてくれなくなったりして、困ります。

おまじないもルーティンと似たものでしょうか。江戸時代のうどん作りの本には、空覚えですが「うどんの汁の味付けは、辛くしたければ塩を左回しに、まろやかにしたければ右回しに云々」とあり、この一文についてある雑誌で次のような解説がありました。お客に供するうどんのために、すべての過程を疎かにせず注意深く心を砕き、最終的な完成度を高めるために必要なおまじない、プロフェッショナルのための心構えの一つ。私にとってのルーティンはまさにこのことであり、だからこそ習うより、各人が見つけるべきだと思うのですが、いかがでしょうか。



 

教授 中尾 和貴
医学部附属動物実験施設
当動物実験施設は、初代施設長田中武彦教授からはじまり、その後現在の医学科研究棟北側に位置する動物実験施設として、2代目濱岡利之教授のもと平成元年(1989年)に竣工、3代目の志賀健教授となる平成2年度(1990年)より運用を開始し現在に至っています。