教授リレーエッセイ

成人式雑感 神経機能形態学 佐藤 真

神経機能形態学
教授 佐藤 真

成人式での傍若無人な若者の立ち振る舞いが、かしましくテレビで流れている。今教えている2年生の中には、おそらく成人式に参加したばかりの学生さんも多いことだろう。しかし、彼ら、彼女らの行動はテレビの輩とは対照的だ(と信じているよ、学生さん!)。

もう何十年も前のことだ。多感な大学生だった頃、そしてウイスキーを片手に人生を語るのがおしゃれだと信じていた頃、新聞の掲載広告など斜め読みがせいぜいであったが、サントリーの広告だけは心の琴線に触れた。お酒の宣伝ではない。1月と4月、成人式と入社式の日の朝刊に掲載されていた故山口瞳氏によるエッセイのことだ。

どんなに勉強しても試験の成績が悪いことがある。
正直に真面目に働いても貧乏している人がいる。
この人生には残酷な一面がある。
「正直貧乏、横着栄耀(おうちゃくえいよう)」という言葉があるそうだ。
しかし、僕は、この人生、血も涙もないとばかりは思っていない。
正直にマジメにやっていれば何か良いことがあると信じている。
第一、そうするよりほかに手立てがないじゃないか。
そうするよりほかに美味い酒を飲む方法がないじゃないか。
結果が悪くてもクヨクヨするな!
成人式を迎えた諸君に「正直貧乏」という言葉を僕は贈る。
成人おめでとう
サントリーオールド(以上、山口瞳 「正直貧乏」)

このエッセイが掲載されたのは昭和50年代後半だ。昭和なんて過去の時代だと笑われるかもしれない。年の差のある先輩が語る社会の作法、人生の機微を、疑うこともせず襟を正して聞いた時代だ。それが当然だった。少なくとも私はそうだった。

「ガンコ親父」なんて死語だろうし、「象牙の塔」の住人から人生論を聴きたいとは思わないだろうな。そうであれば、社会の作法なんて、今の若者はどこで学ぶのだろう?

騒ぐ若者が映る鏡の向こうには、おそらく我々がいる。近頃の若者は・・・とぼやく前に、そのような社会を作り上げたのは、実は我々の世代なのだ。誰だって、青くてうぶで成人式が身近だった時代があるだろう。

成人式が年頭にあるのは良いことだ。エネルギーに満ち溢れる(溢れすぎ?)若者をまぶしく思うと同時に、鏡の向こうの自分を振り返る良い機会だ。成人式は、実は我々のためにもあるのかもしれない。

ただ、サントリーオールドを飲むことはなくなった。手に取ったことも何年もない。なんとなく、多感な時代のほろ苦い思い出とともにしまっておきたい。

教授 佐藤真
解剖学講座 神経機能形態学
当教室は百年を超える歴史を有し、大串教授(1905年開講)、富田教授、小濱教授、正井教授そして遠山教授の主宰を経て、2013年9月より佐藤が着任し現在に至っています。多くの著名な学者が学び育ち、現在も沢山の先輩が国内外で活躍しています。