教授リレーエッセイ

「ほめる」ことの意味 保健学専攻 統合保健看護科学分野 生命育成看護科学講座(成育小児科学) 永井 利三郎

保健学専攻
統合保健看護科学分野 生命育成看護科学講座(成育小児科学)
教授 永井 利三郎

我々日本人は「ほめる」が下手である。しかし今、この「ほめる」が、 企業や様々な分野でも注目されており、日本人の対人関係の在り方が少し 変わろうとしているように思える。実はこの「ほめる」は、欧米の子育て の現場で長年かけてゆっくりと発展し、定着してきた取り組みであり、 成人に対しても有効であることが多くの研究で指摘されている。すでに 「ほめる」を条例化した国内の自治体も出てきている。「ほめる」は ともすると「ほめそやす」「甘やかす」と受け止められがちであるが、 欧米ではこの30年近くの試行錯誤の中で、適切なかかわり方としての 「ほめる」が形成されてきた。そこには単なる「褒める」とは異なる意味が あることに気付く。

我が国での「ほめる」ことの取り組みは大きく遅れてきた。今でも子育て の現場での「体罰」を「しつけ」として容認する考えが根強い。このことは 教育の現場での「体罰」を容認する根深い背景となっている。 教育の先進的な取り組みで注目される北欧諸国においても、30~40年ほど 前までは家庭内での「しつけ」としての「体罰」は容認されていたといわれる。 しかし「体罰」や「激しい叱責」はどうしてもエスカレートしやすく、 結果的に「虐待」に結びつきやすいことが指摘されてきた。その結果、 家庭での「体罰」を法律で禁止する結果となり、その代わりとしての「子育て の方法」として「ほめる」が生まれてきた。

「ほめる」の意味は換言すると「注目する」である。特に年長になれば 「ほめる」よりも「注目する」「あなたを見ています」というサインを送る のが有効である。この「ほめる」を体系的なプログラムにしたのがペアレント トレーニングであり、1990年代に米国で親教育のプログラムとして開発され、 全世界に広がった。日本にも2000年代に導入され、現在急速に広がりつつある。 その内容は深く、研修を受けて取り組まれている。

「ほめる」は『ほめそやす』『甘やかす』のではなく、「いいところを しっかり見て」、「タイミング良く」、「心を込めて伝える」ことである。 相手の行いや考えを普段から理解していなければ「ほめる」はできない。 「ほめる」が行われると、そこに信頼関係が生まれる。認めてもらっていると いう気持ちがあれば、頑張る気持ちが生まれる。「ほめる」言葉には、実は たくさんの種類があることに気付く。我々も「ほめる」のボキャブラリーを 増やし、仲間がともに飛躍できる研究環境にしたいと考える。