教授リレーエッセイ

全身で伝える 保健学専攻 総合ヘルスプロモーション講座 看護管理学 井上 智子

教授 井上 智子

朝はテレビが目覚まし時計代り、日曜日はNHKが5時台に放映する「演芸図鑑」の途中で意識がはっきりしてきます。2021年1月の「新春特集」も、案内役の桂文枝さんと俳優の舘ひろしさんの対談、続く文枝師匠の創作落語「大・大阪辞典」を、いつものように目を閉じたまま聞いていました。


対談では聞き手の文枝師匠からは幾分控えめな様子が、対するベテラン俳優の舘氏からは、擬音語や話の間、息遣いによって、その佇まいまでもが伝わってきました。創作落語では文枝師匠が本領発揮、余りに面白くて日中、Web配信(NHKプラス)を涙ながらに2度も楽しみました。その際、対談部分も視聴し、音声だけでは伝わらなかった文枝師匠の全身を使った対応が、見事に舘氏の表現を引き出していることに気づきました。


対談では新春向けの金屏風を背にして、師匠は豪華な羽織袴を身に着けています。その衣装が放つ煌びやかな印象を考慮してか、落語では使われることのない抑揚をつけた話ぶりとなっていました。対談は相手あってのこと、声音を変え、扇子や手拭を見事に扱い、一人で多様な人物を演じる落語とは演じ方が異なるのは当然、改めて芸達者の表現力の奥深さを目の当たりにしました。


さて、外出時はマスク装着が必須の状況となりました。加えて,医療や介護の現場で働く人々は、手袋、エプロン、ガウン、ゴーグル、キャップ等々、種々の防護具を必要に応じて身にまといます。そして、その姿でマスクを着けた患者さんや利用者さんに話しかけ、患者さんや利用者さんの健康と穏やかな暮らしを支えようと、真摯な態度で医療や介護を担っています。


このように防護具装着が制服の一部となった今、医療や介護の担い手は、時にはその姿を鏡に映し、自身が与える印象を確認する必要がありそうです。そして自らの演技監督者となり、目や眉など見える部分、頭頚部や上肢の動き、体幹の構えや姿勢、立ち位置等が何を伝え得るのかを知り、どのように振舞えば患者さんや利用者さんに、愛情を込めた深い関心を表現できるのかを考え工夫したいものです。これまでも多くの局面を乗り越えてきたからこそ、この時代は健康を支える専門家を含め、すべての人々が全身で真意を伝えることの重要性に気づき、取り組む機会となるのではないかと期待しています。