教授リレーエッセイ

船場吉兆と大腸癌 消化器外科学Ⅰ 森正樹

消化器外科学Ⅰ
教授 森 正樹

老舗料亭の大阪船場吉兆で、鶏肉の産地・原材料偽装や食品偽装が露呈 しました。2008年1月には料理の食べ残しを再利用していたことが明らかになり、 信用は完全に失墜しました。そのため同年5月にはついに廃業に追い込まれました。 この船場吉兆問題は信用第一の老舗料亭で起こった信じられない出来事ですが、 私たちに幾つかの問題も提起しました。その一つは日本の食料自給問題を 考えることであり、さらには増加する大腸癌問題をも考えることです。

日本の食料自給率が低いことは良く知られています。カロリーベース食料 自給率を見ると、オーストラリアが200%以上、フランス132%、カナダ122%、 アメリカ118%の順です。他方、ドイツ、イタリア、イギリスなどは100%未満で あり、日本は40%台と大変低い状況にあります。そのような低い食料自給率に ありながら、私たちの周りでそれを意識した食生活行動がとれているでしょうか? ファミリーレストランでは食べ残しが目立ちます。高月紘先生によれば、生ゴミの うち食べられる部分が捨てられたものは40%を占め、また、買ったまま捨てられた のは11%を占めているそうです。要するに沢山の食料を輸入しておきながら、 それを有効に利用しないという現実があるのです。そのような観点からすると 船場吉兆のもったいないとする考えも、一概には批判できないのではないで しょうか? もちろん老舗料亭が客の信頼を裏切る行為をしたのですから、 批判は当然ですが、食べ物を残す客も批判されるべきでしょう。私たち一人一人が そのようなもったいない精神を発揮すれば、数十パーセントくらいは自給率が 上がるのでないかなどと考え、夜も眠れなくなります。 食料自給率の問題と大腸癌増加の問題は無関係ではありません。食事の洋食化に 伴い、米の消費が減り、畜産物や油脂の消費が増大しました。畜産物や油脂の 生産には大量の穀物や原料が必要ですが、狭い日本の国土にあってはこれらの 生産が追いつけません。そのために自給率が低く推移しています。 他方、畜産物や油脂の消費は大腸癌や乳癌、前立腺癌などの増加に関係して います。洋食の特徴は脂肪量が多く高蛋白なことと、食物繊維が少ないことです。 脂肪は大腸で二次胆汁酸という癌をおこさせ易くする物質になり、蛋白質は 腸内細菌によりインドールやスカトールなどと呼ばれる有害物質に変化します。 このため大腸癌など従来から欧米に多いとされてきた癌が、日本でも増えて いるのです。

以上のことは、私たち日本人が食生活を変化させたことで、食料自給率を低く し、さらにその結果として大腸癌などの癌発生を増加させたことを示しています。 それではこの二つの大きな問題をともに良くする方策はないのでしょうか? ・・・それがあるんです。その方策として考えられることは、もうお分かりですね、そう、日本人が古来より行ってきた米、野菜、魚などを中心とする食事に戻し、 もったいない精神を発揮して腹八分目の食事を楽しむことです。そうすることにより、 食料自給率は改善し、大腸癌の発生は確実に減少するでしょう。この古来からの 食事には食物繊維が多く含まれますので、現代女性に多い便秘も改善すること 間違いないでしょう。 以上、今回全く関係がないと思われた船場吉兆問題と大腸癌の増加の間には、 実は深い繋がりがあること(こじつけ?)をお分かりいただけたと思います。 ちなみに本院の消化器外科では大腸癌などの癌にたいしては国内有数の治療実績を 持っていますので、仮に大腸癌になられた場合でも、安心してご相談ください。

教授 森正樹
外科学講座 消化器外科学Ⅰ
当研究室は臓器別再編により、旧第一外科と旧第二外科が統合され、現在は消化器外科学教室として土岐祐一郎教授とともに運営しております。当研究室の源流は1881年(初代:熊谷省三教授)に開設された外科学教室に遡り、以来、外科学教室としては130年を越える歴史の流れを受け継ぎながら現在に至っています。