教授リレーエッセイ

肥満の研究 生体病態情報科学講座 心血管代謝学 木原 進士

教授 木原 進士

私は子供のころから、ほぼずっと肥満である。メタボリックシンドロームや脂質異常症を専門にしているので「肥満の先生」と呼ばれることがあり、専門を言われていることは分かっても、何か居心地が良くない。


講義で「遺伝性の肥満はほぼ無い」と言うと、「倹約遺伝子というのがあるのでは?」という質問が返ってくるが、倹約遺伝子は肥満を起こさない。お腹が空いて食べ過ぎると、脂肪細胞が肥大してレプチンというホルモンの分泌が増え、レプチンが視床下部に作用して食欲がなくなる。これを子供の頃から繰り返すと食事量が決まるので、倹約遺伝子を多く持つと少食にはなるが肥満にはならない。ただし太ってしまうと、倹約遺伝子を多く持つ人は痩せにくい。子供の頃、父がよくショートケーキをたくさん買って来てくれた。とても美味しかったが、これでレプチン抵抗性を起こしてしまったようである。


大人になってから一度だけ肥満から抜け出したことがある。確か30代後半で内臓脂肪を測る研究に参加した時、昼食を抜くのはもちろん、実験で遅くなった日は週に何日か夕食も抜くという無茶苦茶なダイエットをしてみた。ラボメンバーは、私ががんになったのではないかと心配していたそうである。減量に成功して服を買いに行くと、自分に合う物がたくさんあるのが新鮮で、結構楽しかった。しかし、楽しい時期は短かった。国内外の多くの疫学研究において、減量しても5年以内にほぼリバウンドするという結果が報告されている。そして体重が増えても、筋肉は痩せたままで、とても残念だった。自分が担当したガイドラインに「体重あるいはウエスト周囲長の3 %以上の減少を3 ~ 6 か月間での目標とし、その達成について経時的に確認することが重要である」と書いたが、これがなかなか難しい。


長年、脂肪細胞が分泌するアディポサイトカインの研究をしてきたが、最近は骨格筋が分泌するマイオカインの研究もかじっている。しかし、運動せずに運動を模倣する効果を出すのは、なかなか大変そうである。外来で患者さんによく言うようになった「運動しましょう。体重は減らなくても良いから、筋肉を減らさないように」と。