教授リレーエッセイ

レジリエンスResilience 保健学専攻 統合保健看護科学分野 生命育成看護科学講座(小児看護学) 藤原 千惠子

保健学専攻
統合保健看護科学分野 生命育成看護科学講座(小児看護学)
教授 藤原 千惠子

東北地方に起こった未曾有の大地震、人も家も街もあっと言う間に 呑み込んでしまった真っ黒な大津波の光景が1年たっても目に焼き付 いています。映像で見た者でさえ大きな衝撃を受けた今回の災害です。 ましてや自分の目の前で、家族を、知人を、家を、街を奪い去られて しまった人々の悲しみと怒りの深さはとても計り知れません。 そうしたストレスフルな体験に打ちのめされた人々が、やがて頭も持ち 上げ一歩一歩前に進もうと努めておられる姿に、人間のもつ凄さと その内面にある力の強さを再認識せずにはいられません。

「レジリエンスResilience」というテーマで数年前から研究に取り 組んでいます。研究テーマはレジリエンスですと言うと、最初の頃は、 ほとんどの方が怪訝な顔をされ、それ何と尋ねられることが多かった のですが、最近では知っておられる方も徐々に増えてきて、今年は 国内でもメインテーマにレジリエンスという言葉が使われている医療 系の学術集会が2つもあり、認知されてきたと改めて感じています。

「レジリエンスResilience」とは、弾力性という意味ですが、 1970年頃より心理・精神医学の分野で、苦境を体験した後に復元する力 という人間の特性を表す言葉として使われるようになりました。 また、レジリエンスは、特別な人だけが持っている特性ではなく、 誰もが持ち備えていると考えられています。初期の研究では、紛争 地域やスラムに暮らす子どもを対象としたものが多かったのですが、 現在ではさまざまな対象や状況に拡大され、人間の特性を表すもの として定着してきています。しかし、レジリエンスの定義は一定した ものはありませんし、丁度ぴったりの日本語訳もまだありません。 しいて言えば「立ち直り力」というのが一番近いかなと思います。

人を苦境に陥れる過酷な体験は、災害以外にも多くものが含まれます。 私の専門分野の小児看護学では、子どもの深刻な病気や障害がそれに 当たると考えています。子どもが深刻な病気になった時、子どもや親は その現実に大きな衝撃を受け、苦悩するのは当たり前のことだと思います。 その中でも病気に立ち向かい、頑張ろうとしている子どもや親に出会う ことが多々あります。一方でストレスに押しつぶされたまま苦しんでいる 人も少なくありません。すべての人が持ち備えているはずなのに、発揮 できる人とできない人の何が違うのでしょうか。そこで、深刻な病気と いう苦境において、前向きに頑張っている人の体験を詳細に分析すること によって、レジリエンスの具体的な姿と促進できる要因を見出すことが できるのではないかと考えています。子どもの深刻な病気や障害に苦悩 する人の支援に役立てたいと思っています。