教授リレーエッセイ

医師の働き方改革 救急医学 織田 順

救急医学
教授 織田 順

高度救命救急センターを主体的に運営する立場から、来春に適用される「医師の働き方改革」に関する質問をいただいたり、またご心配をおかけしたりする機会が多い。もっとも関心が高いのが時間外労働規制と勤務間インターバルの確保である。これに対して超過勤務時間が長い診療科では、いかに連続勤務を回避しつつ勤務時間を水準内に収めるか、に苦心しており、私どももそのひとつである。この規制に対して様々な声が上がっているが反対の意見がかなり多いように見える。労働時間を短縮しても医師の数やポストが増えるわけではないので、苦労して作り上げた自施設や地域での業務や役割分担の大幅変更を迫られること、変更では対処しきれず、業務に穴が開くことになりかねない、そもそも本人の意志による労働や研鑚を制限して良いのか、といった主張も見られる。

一方、一部領域で激務が当然といった風潮で過重労働が常態化している問題は認識されなくてはならない。患者さんを救うためには自ら健康でなければならないこと、また様々な背景、状況の医師が健全に働けなければならないからである。改革はこの方向では正しい。

本来であれば過重労働をなくす仕組みを各方面から丁寧に構築していくべきところであろう。しかし医療体制は様々な規制を受けつつ複雑かつ精緻に大きく発展しておりシステムやプロセスのどこかを調整し解決を図ることは既に不可能である・・ということが理由かどうか判らないが、時間外労働規制と勤務間インターバルの確保(といった目標状態とそのもの)を直接規制することとなった。

われわれは、少し無理してでも何でもやってきた、という時代に一区切りつけて業務を振り返って総量を計り、整理すべき時期に来ている。医療の高度化、多発する災害や感染症の脅威等により業務は膨張し続けているが、それらを担う医療者の頭数は変わらず、多くの医師や部署、あるいは医療機関は、「あと少しだけ無理してがんばる」を繰り返して相当無理をしすぎるところまで来てしまった。この延長ではないが、近年ではCOVID-19パンデミックのような未曾有の災害に対して多くの医療者が緊急的に尽力し、その結果COVID-19診療と地域の救急医療、一般診療とがなんとなく守られたが、これには医療者たちが様々なものを度外視して献身的に乗り切ったことも大きい。医師の数を増やそうにも診療報酬は公定価格のため限界があり、公共サービスと仕組みが異なる。行政等がこの経験を「なんとかなったので次も同じように対処すれば大丈夫」と誤認することはないだろうが、平時にこそ対策を講じておかなくてはならない。

 

教授 織田順
教授 織田 順
生体統御医学講座 救急医学
当研究室は、昭和42年に日本初の重症救急専門施設「特殊救急部」として開設されました。その後、救急医療のパイオニアとして日本の救急医療を牽引してきました。その軌跡は2002年NHK「プロジェクトX」にも取り上げられました。現在も全国から救急医学を志す医師が集まり指導的人材を数多く輩出しています。