教授リレーエッセイ

米国での留学経験を振り返って 保健学専攻 統合保健看護科学分野 看護実践開発科学講座(看護疫学) 牧本 清子

保健学専攻
統合保健看護科学分野 看護実践開発科学講座(看護疫学)
教授 牧本 清子

米国に留学・就職し、14年間生活した後、日本に帰ってきて21年目になる。 最初はいわゆるリバースカルチャーショックで、日本に再適応できるのだろうかと 真剣に考えていたときがあったが、米国に帰って仕事をする気力・体力がわいて こなかったので、順応するしかないと決め、surviveした。

米国に留学や仕事で長期滞在する人には2種類あるようにみえる。 1つは、米国でないと生活しにくい米国順応タイプと、やはり日本が自分に 合っていると思い帰郷するタイプである。私は後者のほうである。若いときは、 知的刺激に満ちた米国での生活も、40過ぎて体力が衰え始めるころ、ケーキ よりもアンパンが恋しくなり、両親は年老いてきて、やはり帰国したほうが よいのではと思うようになった。一方、私の友人の一人は、見た目も中身を 大和なでしこタイプのようだが、日本には住めないと言って、早くから米国の 国籍を取得していた。

米国も私が留学した1970年代後半は移民政策もおおらかで、入国するときは 卒業するまでというビザを発行していた。それから、イランの米国大使館 人質事件があり、移民政策が厳しくなり、留学生のビザも期間が限定される ようになった。その後、同時多発テロが発生した後は、外国人の指紋も取る ようになり、あまり訪問したいという気がなくなってしまった。

しかし、米国は留学生の獲得では世界一で、いまだに若者にとって魅力があり、 多くの学生をひきつけている。地域ぐるみで留学生を呼び込む努力をして、 マーケティングをしている市もある。一方、オーストラリアは、留学生の獲得を 国の主要な産業と位置づけ、そして育成している。シンガポールを筆頭にアジア 諸国も、医療・教育の分野を新戦略の主要な柱と位置づけ、留学生の獲得や欧米 の大学との連携を強化してきた。日本は、長い間、世界第2位の経済大国であった ことと、大きな国内市場があり、外貨を稼がなくても企業としては存続すること ができた。このため、あまり新成長戦略を考えるインセンティブがなかったようで、 この領域での出遅れ感があるように見える。

いざ留学生を増やそうとしても、宿泊施設の問題があったり、物価が高く、1ヶ月の 研修でも留学生にとっては負担が多い。アジアの国で留学生を誘致している大学は かなりの資源を投入して、体制を整えている。定年退職が近づいてくる私にとって、 “がんばれ日本”と応援したくなる今日このごろである。