教授リレーエッセイ

AIが電子カルテに進出? 腎臓内科学 猪阪 善隆

腎臓内科学
教授 猪阪 善隆

ここ数年、春になるとAI(人工知能)を搭載したコンピューター将棋ソフトとプロ棋士が対戦する将棋電王戦が話題になる。東大入試にチャレンジするコンピューターも話題となっており、医療の世界においても徐々にAIが導入されることであろう。

最近興味深い話を講演で聞いた。ある大学病院の小児科の回診において、主治医が「下痢、甲状腺機能低下、溶血性貧血、1型糖尿病」をきたす患児の紹介をした際、教授が「誰かこの疾患が思い当たるものはいるか?」と問いかけたところ、しばらくの沈黙のあと、後ろの方のレジデントが「IPEX症候群(制御性T細胞のマスター遺伝子FoxP3の遺伝子変異により起こる)ではないですか?」と答えたという。実は、このレジデントはGoogleで疾患の検索をしていたのである。

ロボット支援手術(ダ・ヴィンチ)のような医療技術も今後の医療を改善するであろうが、おそらくAIの技術が最も取り入れられるのは診断に関わる分野であろう。我々内科医にとっても、診断は大きなウェートを占める。我々は、日常診療において患者さんの訴えや身体所見、検査データ電子カルテに書き込んでいる。近い将来には、この電子カルテにAIが導入されるかもしれない。

例えば、電子カルテに症状を打ち込むだけで、AIが「〇〇が疑われます」「〇〇という症状の有無について確認してください」「○○の検査を追加してください」と指示し、診断の補助的な役割を果たす時代が到来しそうだ。

このようなAIが進化した時代に、我々内科医が果たす役割はどのようなものであろうかと考える。単に鑑別診断のリストを列挙したり、検査所見や画像診断が典型的な疾患を診断したりするのであれば、AIの方が得意かもしれない。

しかし、患者の訴えや愁訴をどのように情報として言語化し、患者の表情や声の質をどのように捉えるかが、内科医の役割であろう。治療に際しても、エビデンスだけに頼るのではなく、医師と患者にとってメリットとデメリット、患者の生活背景などを考えながら治療方針を決定するshared decision makingも、医療スタッフにしかできないことである。

このような時代だからこそ、患者さんの目を見ながら話を聞くことが必要であろう。電子カルテの画面を見る時間が長く、患者さんの表情を見る時間が少なくなった日々の診察を反省する次第である。

教授 猪阪善隆
内科学講座 腎臓内科学
腎臓内科学教室は、昭和30年に阿部裕先生(本学名誉教授)が創設された第一内科腎臓研究室に端を発します。その後、平成17年に老年・腎臓内科学講座(荻原俊男教授)に統合されたのち、平成27年10月、創設60年目の節目に単独の講座として開講いたしました。医局は平成28年2月に現在の臨床研究棟2階に移転し、現在に至っています。