教授リレーエッセイ

山岳部の復活 小児成育外科学 奥山 宏臣

小児成育外科学
教授 奥山 宏臣

もう30年以上前の話ですが、私は学生時代山岳部に所属していました。そのころは 部員も20人以上いて、北アルプスを中心に1年を通じて活発な山行をしていました。

折からのヒマラヤ登山ブームもあって、社会的な注目度も高く、山岳部はメジャーな 体育会系クラブの一つでした。

時は流れて1990年代になると、3K(きつい、汚い、危険)の標語などが登場して、地味な山岳部の人気は低下し、部員は減少の一途をたどりました。そんなクラブとは すっかり疎遠になっていた私に、ある日部長から山岳部の現状を知らせる一通のメール が届きました。“現在部員は4年生一人なので、来年新入部員が入らなければ、山岳部 は廃部になります。時代の流れで仕方ないと思います。”といった内容でした。ここに きて初めて事態の深刻さに気づきました。さてこの危機を乗り越え、クラブを存続させる 方法はないかとOBが集まりました。幸い中ノ島山岳部(医学部山岳部)はアウトドア部と 名前を変えてしっかりと部員を集めていたので、彼らにお願いして、全学の山岳部に 入部(兼部)して頂き、ひとまずは廃部の危機を乗り越えることができました。新入 部員の勧誘に有効な手だては?と彼らに尋ねたところ、構内にクライミングウォール (フリークライミング用の人工壁)を作ってほしいとの希望でした。折からのフリー クライミング人気で、クライミングジムがあちこちにできてきた時期でもありました。

さっそく学生部と交渉して、吹田キャンパス体育館2階通路の踊り場に設置の許可を 頂くことができました。費用を調達すべく山岳部OBに寄付を募ったところ、予想外にも 多くの方々から寄付を頂くことができ、2010年春には立派なクライミングウォールが出来上がりました。高さ4メートル、幅10メートル程の壁は間近に見ると結構な迫力 です。壁には様々な形のホールド(手がかり)があちこちに取り付けられているのですが、 壁全体がオーバーハングしているのでそう簡単には登れません。挑戦意欲をかきたてて、 いい感じです。

昨年大学に帰ってきて久しぶりに体育館を覗くと、4年前に完成したクライミング壁は、 滑り止めのチョークと手あかで汚れ、良く使い込まれていました。聞けばその後部員も 増えて、今年は20人を越えたとのこと。OBの願いが叶って、山岳部は見事に復活していました。

とても嬉しい気分で体育館を後にして、研究棟に向かう道すがら考えた。そういえば かつて自分が大学を卒業したころ、外科は人気の診療科であった。時は流れて30年、今はなお若い人の外科離れが続いている。山岳部同様、外科人気復活の妙案はない かと、一気に仕事モードに引き戻されてしまった。

教授 奥山宏臣
外科学講座 小児成育外科学
新生児から15歳までのこどもの外科疾患全般を担当する診療科です。なかでも、新生児外科、小児がん、外科栄養、肝・小腸移植を重点領域とした診療活動を行ってきました。最近では、体への負担が少ない内視鏡外科手術に積極的に取り組んでいます。患者さんとご家族に信頼される質の高い診療が目標です。