教授リレーエッセイ

A Iに医療技術者は仕事を奪われるの? 保健学専攻 医用物理工学講座 小泉 雅彦

医用物理工学講座
教授 小泉 雅彦

 

ネットで検索すると、「A Iに奪われる仕事」というのは数多いらしい。およそ事務的、管理的、解析的・分析的仕事、調査、検査、品質保証といった定型的業務がそれである。既存の知見からの積み重ねと論理が決まり仕分けられる機械的な業務。これはAIにとって代わられる。人の日々の仕事の多くは一般的なルーチンワークである。その殆どはAIに置き換わっていくのであろう。「奪われる」というとネガティブである。人は本来自由に発想し、意思を持って行動を選択する。日々思考し工夫する生き物である。これら機械的で時間的労力のみ要する仕事が省かれる。大変好ましくポジティブなことだ。

医療技術者も例外ではない。AIは確実に進化する。旧来からの医療的判断だけでなく、個々の条件をすべて網羅した総合的判断を下せるようになる。それによって日々のルーチンワークの多くが省かれる。医療技術者が膨大な労力から解放される日は確実にやってくるだろう。しかし、本当にそうか?AIに仕事を任せられるか?医療技術者は労力を省け、ルーチンから解放され楽になっていけるか?

まず例外は看護師であろう。およそ看護はAI搭載のロボットでは取って代われない。肉声でケアされることを患者はあくまで望む。最後まで残る職種であろう。
また、医師やその他の医療技術者に求められ残る究極の業務がある。最終決定と説明(IC)である。判断を示す主体がA Iに移る。しかし、日々刻々と変わる患者の様態に何が良いかを最終的に決定する。目の前にいる患者の機に応じて分かるように説明する。それはあくまで柔軟に考え、肉声を持った人だからできる。何故その検査がいるのか?何故この処置がいるのか?どのように経過を診て伝えるか?患者の機に応じた最適な判断と納得のいく説明が求められる。それはAIでなく人しかできない。

さらに、新しい医療技術を生み出していくのに研究は不可欠である。日々の臨床で生じる問題を設定し、解決しなければならない。研究マインドを持った新たな探究は無くならない。遠い将来は不明だが現状のAIでは、この問題設定と新たな探求の点でまだ人には及ばない。したがって、医療技術者はAI時代だからこそ余計に研究力が必要とされるであろう。大学の医療技術者教育では、学生は医療施設や医療系企業へ現場の技術者として巣立つ者が大半である。そうであっても、研究者育成という高等教育としての基本的役割が、益々重要になってくるであろう。

AI時代になっても、研究者養成第一を頑なに崩さず研究職への勧めを続けたい。
それが、少なくとも自他ともに医学・保健学でのリーディングUniversityと認められる阪大の役割であろうと信じる。