教授リレーエッセイ

保健学科設置20年における開物成務 保健学専攻 統合保健看護科学分野 総合ヘルスプロモーション科学講座(地域健康開発学) 早川 和生

保健学専攻
統合保健看護科学分野 総合ヘルスプロモーション科学講座(地域健康開発学)
教授 早川 和生

大阪大学医学部に保健学が新しく設置されて本年が20年目となり7月に保健学科設置20周年記念の式典が開催されました。保健学科の教育は現在、3つの専攻で構成されており、看護学専攻、放射線技術科学専攻、検査技術科学専攻の3つです。

これら3つの分野において今までの20年間の教育により、既に非常に幅広い分野で活躍する多数の優秀な人材を育ててきました。広く知られている通り、「開物成務」の言葉の由来は「人間性を開拓・啓発し、人間としての務めを成す」という意味です。

保健学科では、今までの20年間の活動を通して既に開物成務の教育を成し遂げつつあるように思われます。

私の所属する分野は、看護学専攻の中に有ります。今後、看護学の分野が更に大きく発展するために必要なことは、「アカデミック・カルチャーの醸造」と思われます。

高度に発達した専門職は、その職種内に学問的な雰囲気、アカデミック・カルチャーを持っているものです。近年、看護学系大学の数が急増しつつあり、日本の看護学教育は既に大きな変革期に入っています。これは看護職種内に新しくアカデミックな雰囲気を醸し出す基盤が出来てきたことを示しています。学問としての看護学を追究するリサーチ・コミュニティが形成されつつあり、今後は質の高いアカデミック・カルチャーを職種内に醸造していくことが期待されます。

また大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻では毎年、多数の看護学研究者を養成しています。一般に多くの研究者は現在、皆が関心を持つようなテーマについて研究し、その中で先頭に立とうとします。つまりナンバーワンになろうとします。そのほうが研究費の獲得にも有利ですし、短期間にある程度の論文も書けるからです。しかし、このような研究では例えナンバーワンになり得たとしても、真の満足や感動は得ることが難しいと思います。最もよい生き方は、自分を生きるということです。自分しかできない、本当に興味を持っているテーマを設定して生きることだろうと思います。別の言葉で表現するなら、ナンバーワンよりオンリーワンを目指す研究を進めることです。ナンバーワンを目指す研究者にとって道は1つであり、その中にあって先頭に立つことだけを考える癖があるので、学問において深くても狭い傾向が見られます。広い器量というのは、自分と異質なものを受け入れる度量の大きさと言えるでしょう。研究においてゴールの設定は各人各様にあるべきです。つまり異質な研究上のゴール、それぞれの価値を我々が受け入れる度量を持つことが豊かな研究社会を築くことが基礎となるのではないでしょうか。