教授リレーエッセイ

元気の秘訣 生体防御学 茂呂 和世

生体防御学
教授 茂呂 和世

研究には、発想、技術、環境、運、縁などいろいろな要素が必要だというが、気力や体力も研究を続けるためには重要だ。私は滅多に風邪をひかない。インフルエンザにも一度も感染したことがない。我ながら立派な免疫細胞を持っているのだろうと思うが、内心、風邪を引かないのは気力があるからではないかと思っている。朝はめっぽう苦手で壮絶な戦いの末、毎朝どうにか起きているが、起きて30分経てば気力ゲージは満タンに満たされる。「どうしてそんなに元気なの?」と聞かれることもしばしばだ。
 
そこで、今日は元気の秘訣について考えてみることにした。気力を蝕むものは何かを考えてみたところ、真っ先に浮かんだのが「やりたくない仕事」である。確かに私はやりたくない仕事を断ることが多い。Noと言える日本人は私の理想だ。最近はやりたくない仕事でも断ってはいけない仕事が増えてきたが、その場合は、なぜやらなくてはいけないかを考えることで、やりたくない仕事をやるべき仕事に変えてから挑むことで気力の消耗は激減する。次に浮かんだのは「絶対できないという思い」である。そんなの無理、自分にはできない、誰もやったことがない、という悲観的な思いを持ちながら物事に取りかかると気力がなくなりゴールはさらに遠くなる。逆に「絶対にできる」と信じると、自分の中の気力も上がるが、絶対にできると信じる人には誰かが必ず助け船を出してくれる。人の助けは気力を維持するためには重要な要素で、1人では乗り越えられないことも仲間がいることで、多少の困難も一喜一憂しながら乗り越えることができるようになる。
 
「あなたの魅力は何だと思いますか」とずいぶん目上の先生に言われた事がある。その先生曰く、「常に自然体であること」が私のいいところだという。これを聞いた当時は意味がよくわからず、ずいぶん地味な魅力だなぁとも思ったが、教授というポジションになってから、自然体でいることの大切さを感じるようになった。いろいろな人に「教授っぽくない」と言われるようになったせいだ。教授っぽいとはいったい何か…。私の父はやはり大学教授だったが家に帰るとただのオモシロおじさんだったため、私にとっての教授像と世の中の人の教授像はかなりの開きがあるように思う。いずれにせよ、あまりに教授っぽくないと言われてしまうと、どうにかしなくてはいけないのかなとも思い、無理に自分を抑え教授風にしてみるが、どうしても不自然体になってしまう。所詮、新米教授に威厳を出せるほどの実力も経験もなく、肩書きは一晩で容易に変るが自分の本質はそう簡単には変らない。「自然体であること」は素晴らしいのである。過大評価も過小評価もせず無理なく自然に生きることはとにかく楽だ。家の顔、ラボの顔、社会の顔を使い分けると無理がたたり疲れてしまう。私の元気の秘訣は自然体であることなのかもしれない。
  
 

教授 茂呂和世
感染症・免疫学講座 生体防御学
自然免疫システム研究チームでは、2010年に世界に先駆けて報告した新しい免疫細胞、”2型自然リンパ球(Group 2 innate lymphoid cell: ILC2)”に着目した研究を行っています。ILC2の基礎的な機能解析から病態発症機構、治療法開発まで一貫して行うことで多様な疾患の理解につなげたいと思っています。