教授リレーエッセイ

天文学的数字 保健学専攻 生命育成看護科学講座 成育小児科学研究室 酒井 規夫

教授 酒井 規夫

とてつもなく大きい数のことを天文学的数字と言って、いろんな場面で使われてきました。英語でもastronomical numberなので、洋の東西を問わず、大きいことの代表が天文学のイメージと思います。例えば星の数ですが、我々の太陽系の属する銀河に約2000億個の星があり、宇宙全体ではその銀河がどうも2兆個以上あると言われていますので、2×1011個×2×1012個=4×1023個となります。むかし「大きいことはいいことだ!」というチョコの宣伝があったからというわけではないですが、僕自身は天文とか宇宙が子どもの頃から大好きでした。

そして、村上春樹の小説に出てくる青年のキーエイジ15歳の頃、僕は素粒子や宇宙の謎を追うことを人生の目標として、気がつけば天文学科を選んでいました。一般相対性理論、ブラックホール、暗黒物質、ビッグバンなど、日常生活とはかけ離れているけれども、この宇宙の根本原理を追求することは、限りなく困難な道であるという実感とともに、それでも挑戦し続けたいという気持ちとの間に揺れ動いた大学時代でした。
 
最近でも2010年のはやぶさの奇跡的生還、2012年のヒッグス粒子の発見、2015年のニュートリノ振動発見による梶田氏のノーベル賞、2019年のブラックホールの撮影成功、など宇宙へとつながるニュースには心踊ります。
 
僕自身は天文学科を卒業してから、本学医学部に学士入学し、小児科に入り、大学院で遺伝性脱髄疾患であるクラッベ病の遺伝子を1994年に同定することになりました。当時はプラークハイブリダイゼーションをしながら、まさに数限りない星の中から正解を探し当てる困難と楽しさを感じていました。
 
そして今、キーエイジ15歳の4倍となる年齢を超えて、保健学科で小児看護の教育、研究と永年の課題であった認定遺伝カウンセラーの養成を始めています。また、ツインリサーチセンターで,双子の研究で何ができるのかという挑戦をしています。
 
宇宙の年齢は150億年とも言われ,天文学的時間の中では一瞬の流れである自分の時間の中で、医療の現場での多くの患者さんと出会い、研究の現場での様々な研究者との出会い、教育の現場でのいろんな学生さんとの出会い、人生は望遠鏡の小さな視野に入った星との出会いの奇跡と、また似ているなと感じます。これからもちっぽけな存在として、ちっぽけな世の中を生きながら、宇宙を感じながら過ごしていきたいと思っています。