コンピュータ支援診断と人工知能 生体物理工学講座 石田 隆行
私は、1990年頃からコンピュータ支援診断(computer-aided diagnosis: CAD)の研究開発を続けてきました。CADとは、コンピュータによってX線画像、CT画像、MR画像など様々な医用画像を解析し、病変の検出や定量化を行う手法のことで、医師に参照して頂くことにより、病変の検出率向上、診断の精度や再現性の向上、医師の読影負担の軽減に寄与できる研究です。
CADの研究は、冷戦終結後、米国で乳がん対策に多額の資金が投じられたことによって大きく前進し、世界へと広がっていきました。1994年からシカゴ大学で研究員をしていた私は、胸部X線画像における間質性肺疾患の検出、人工ニューラルネットワークによる間質性肺疾患の検出と鑑別診断、経時的差分像技術の開発などの研究に取り組みました。今思い返すと、その頃使っていたコンピュータは、2000万円程度のワークステーションでしたが、1台を2、3人の研究者でシェアして使っており、ある研究者が3層の全結合型人工ニューラルネットワークの学習をはじめると、カーソルが戻ってくるのに何秒もかかるといった具合でした。学会前ともなると、コンピュータの使用予定を綿密に相談しながら、24時間駆使して研究をしていたことを思い出します。つくづく、今は恵まれた研究環境になったなあと感じます。
2012年にAlexNetという深層学習(deep learning: DL)モデルが発表され、画像の特徴を自動的に抽出し精度よく分類できるようになったため、多くの研究者がさらに性能の高いDLモデルの開発に取り組み、人工知能(artificial intelligence: AI)の第三次ブームが巻き起こりました。CADの研究にもDLが用いられるようになり、その性能は大きく向上しました。私の研究室で、AIを用いたCAD(AI-CAD)で胸部X線画像の結節状陰影検出の手法を開発した際、昔は、画像パターンの形状や濃度分布を解析して、結節か結節によく似た正常構造かを分別していましたが、DLに任せた結果、あっという間に高い精度で結節状陰影を検出することができたことには、驚きを隠せませんでした。この時、DLの知識・技術を教育する必要があることを強く感じました。
最近、生成AI、ChatGPTなど、AI技術は驚くほどのスピードで進歩し続けています。実際に診療現場にある質の良い多くのデータで学習することによって、より複雑な思考ができる人に近づいて、AI-CADの技術はさらに進化し、患者一人ひとりに最適化された治療法を提案することをも可能になるでしょう。それによって、医療の質が飛躍的に向上することを期待しています。
最後に、AI–CADの研究は、技術革新という一面だけでなく、その結果が病変の早期発見などにつながることから、人々の健康と生活の質を向上させるための重要な手段ともいえます。私たちは、これからもこの分野の研究を進め、より良い医療の未来を築いていくことを目指したいと思っています。