教授リレーエッセイ

個の充実を評価するー豊かな人生は業績になるかー 消化器内科学 小玉 尚宏

消化器内科学
教授 小玉 尚宏

 私は数年前から阪大病院のDEI推進委員会の末席に加えていただき、より良い働き方について考える機会を得ている。その中で私が考えるようになったのは、大学教員の評価に新たな視点を加えられないかということである。

 現在、医師である大学教員は、教育・研究・診療・管理運営の4つの側面から評価されている。いずれも重要な要素である一方、多くの業績指標は、投入できる時間が多いほど積み上げやすいという特徴を持つ。働き方改革によって長時間労働には一定の歯止めがかかったが、研究活動をはじめ、多くの業務は今なお自己研鑽という形で行われている。

 もちろん、自らの情熱で学問や研究に打ち込み、優れた成果を生み出すことは大学にとって不可欠である。しかし、それだけが唯一の在り方ではなく、多様な人材が活躍するためには、多様な働き方も尊重されるべきではないだろうか。

 私自身、その考え方を大きく変えたのは米国留学であった。私は産婦人科医である配偶者と共働きをしており、二人の娘がいる。留学前は、配偶者が育児の中心を担い、私は仕事に専念するという比較的伝統的な役割分担の中で生活していた。

 しかし米国では、多くの場面で仕事よりも私生活が優先されていた。家族との時間は当然のものとして守られ、子どもの行事は会議よりも優先される。当初は戸惑ったものの、仕事と私生活のバランスが取れた生活に大きな充実感を覚えた。また、配偶者と共に家庭を支えながら、それぞれがキャリアを追求することの価値を実感する機会にもなった。

 もちろん、私は仕事より私生活を優先すべきだと主張したいわけではない。大学病院の医療は、多くの医療者の献身によって支えられており、私自身もその現実の中で働いてきた。ただ、多忙な環境だからこそ、それぞれが大切にしたい人生の時間を確保できる仕組みが必要ではないかと感じている。

 帰国後、日本でも働き方改革は進んでいると感じる。しかし、家族との時間や趣味、地域活動など、仕事以外の充実した人生を積極的に語る人はまだ少ないように思う。もう少し「個」の領域を大切にし、そのことが自然に受け入れられる環境があってもよいのではないだろうか。そうした空気が醸成されれば、出産、育児、介護などのライフイベントと仕事との両立もしやすくなるはずである

 そこで私は、大学教員の評価制度に「個の充実」という視点を加えることを提案したい。もちろん論文数や研究費のように定量化することは難しい。しかし、育児や介護への参画、地域活動、自己啓発、趣味など、人それぞれが大切にする活動を可視化することには意味があるはずである。

 評価制度は単に人を評価するためのものではなく、組織が何を大切にしているかを示すメッセージでもある。教育・研究・診療・管理運営に加え、一人の人間として豊かな人生を送ることも尊重する。そのような価値観を示すことが、多様な人材が活躍できる環境づくりにつながるのではないかと考えている。

 

教授 小玉 尚宏
内科学講座 消化器内科学
当研究室は、旧第一内科・旧第二内科・旧第三内科の消化器グループを統合し、2005年6月に設立されました。初代 林紀夫教授、二代 竹原徹郎教授を引き継ぎ現在に至ります。同窓会員は900名を超え、30を超える関連病院と密に連携し、診療・研究・教育を行っています。